遺産分割をどのようにしたらいいでしょうか?
相談内容
先日、父が亡くなりました。
相続人は、母と兄そして弟である私の3人で遺言はないようです。
父の遺産は、自宅である土地・建物(価値は5,000万円)と、預貯金5,000万円です。
法律上どのような遺産分割をすればいいのでしょうか。
結果
土地・建物について,法定相続分どおりに分割するとすれば,母親2分の1,兄と弟で4分の1ずつの共有名義にするか,土地・建物を売却した代金の2分の1を母親に,4分の1ずつを兄と弟に分割する方法が考えられます。
必ずしも法定相続分どおりに遺産分割しなければならないというものではありませんので,相続人全員で合意ができれば,母親だけに相続させるというような方法もあるでしょう。
他方,預貯金については,以前は遺産分割等を経ることなく法定相続分によって当然分割されると考えられていましたが,最高裁判所大法廷平成28年12月19日判決が,共同相続された預貯金は(相続開始と同時に当然に分割されるものではなく)遺産分割の対象になるという判断を示しました。
そのため,預貯金についても,法定相続分どおりに分割するとすれば,母親2500万円,兄と弟で1250万円ずつを取得しますが,相続人同士で合意ができれば,母親だけに5000万円を相続させるという方法もとることができます。
ところで,2018年7月に国会で成立した改正民法(相続法)では,「配偶者居住権」という権利が創設され,この権利も遺産分割の対象になるという新しいルールが作られました(この法律の規定は2020年4月1日から施行されています。)。
配偶者居住権とは,被相続人の配偶者が,被相続人の財産に属した建物に相続開始時に居住していた場合において,遺産分割,遺贈ないし死因贈与で配偶者居住権を取得することとなります。配偶者が,配偶者居住権を取得した場合,居住建物を無償で使用収益することができます(改正後の民法1028条)。
これまでは,法定相続分どおりに相続するとした場合,父親の残した遺産(土地・建物,預貯金を合わせて1億円)のうち,母親が土地・建物に住み続けるためにその所有権の全部(5000万円)を相続したとすると,兄と弟で残る預貯金を2500万円ずつ相続するという遺産分割が行われることもありました。つまり,この場合、母親は遺産として預貯金を手にすることはできませんでした。
しかし,この新しいルールによって,法定相続分どおりに相続するとした場合であっても,遺産分割の内容として,母親が土地・建物に関する配偶者居住権を相続し,兄と弟がその負担付き所有権を2分の1ずつ相続することも可能となりました。
配偶者居住権にも一定の財産的価値はあり,その価値は遺産分割にあたって考慮されますが,それでも土地・建物の所有権を全部相続する場合よりは安い評価額となり,その分、母親の手に預貯金の一部が残る可能性が高くなるわけです。