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イギリス刑事法紹介㉗~酩酊(Intoxication)~

2025.03.25ブログ

 日本法では、飲酒等による酩酊状態は、責任能力の問題として取り扱われており、理論上、酩酊の程度によっては心神喪失により無罪ともなり得ます。
 一方、イギリス法では、飲酒や薬物摂取による「酩酊(intoxication)」は、犯罪の主観的要件(故意等)の問題として処理されることになります。そして、特定の種類の犯罪について、「酩酊」を理由に故意の存在が否定されることで、犯罪が不成立となることがあり得ます。

 まず、前提として、イギリス法上、酩酊状態にあったとしても、そのことだけで犯罪の成立が否定されるわけではありません。「素面であったならば犯罪に及んでいないはずだ」という主張をするだけでは、犯罪の成立が否定されることはありません。あくまで、酩酊状態により、故意等の主観的要件が認められないといえるかが問題となります。
 そして、「酩酊」により犯罪の成立が否定されるためには、酩酊状態を理由として故意等の主観的要件が満たされず、かつ、罪に問われた犯罪の類型が特定の種類である必要があります。
 例えば、殺人罪(murder)や窃盗罪(theft)の場合には「酩酊」を理由として故意が否定されることがあり得ますが、傷害致死罪(manslaughter)や強姦罪(rape)の場合には「酩酊」を理由とした故意の否定という法理は適用されません。
 どのような類型が「酩酊」法理の適用対象となるかという点については、判例法で事案毎に判断されるのみであり、その不明確性は批判の対象にもなっています。

 なお、酩酊状態が非自発的に引き起こされたものであった場合には、上記のようなルールは当てはまらず、どのような類型の犯罪であっても「酩酊」法理により主観的要件の成立が否定されることがあり得ます。
 

※本稿におけるイギリス法の説明は、イングランド及びウエールズ圏内において適用される法規制に関するものです。

弁護士/英国弁護士 中井淳一
https://japanese-lawyer.com/

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★