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飲酒と犯罪(その1)

2025.02.18ブログ

2025年1月
弁護士 菅 野 亮

1 飲酒と犯罪

 日本において、飲酒自体は、犯罪ではありません。
 ただし、飲酒して自動車を運転することは道路交通法で禁じられた行為であり、犯罪となります(道路交通法65条、117条の2、117条の2の2)。
 また、20歳未満の者が、飲酒することも、法律で禁じられています(二十歳未満の者の飲酒の禁止に関する法律・第1条)。もっとも、飲酒運転と異なり、同法では、飲酒した20歳未満の者への罰則はなく、20歳未満の者に酒類を販売したり、年齢確認を怠るなどした事業者が処罰の対象となっています(同法3条)。

 

2 刑事裁判で飲酒した事情が有利な事情となるか

 飲酒運転などの犯罪では、飲酒して運転する行為自体が犯罪になりますので、飲酒した事情が刑を軽くする事情にはなり得ません。もっとも、一般的には、飲酒量が多く、飲酒直後の運転行為に危険性があると考えられますので、飲酒量が少ない事情は、飲酒量が多い事案と比較すれば、相対的に責任が軽いという見方は可能です。

 暴行罪や傷害罪においても、飲酒の影響で喧嘩になってしまったという事例があります。飲酒自体は犯罪ではありませんが、飲酒して判断能力や行動制御能力が低減し、暴力を振るったからといって、それだけで刑を軽くする事情にはなりません(飲酒により重度の酩酊状態となり、責任能力がない【心神喪失】と評価された場合は、刑事裁判で罪に問われることはありませんが、そのことは後に述べます。)。

 飲酒の影響で行った事件は、計画性がなく突発的な事件であったり、飲酒の影響で行為の危険性が低いと評価される事案もあります(酩酊の程度がひどく、暴力に力強さがない場合)。飲酒しておらず、計画的で、危険な暴力を振るった事案と比較すれば、飲酒の影響で突発的に生じた事件のほうが相対的に非難の程度が軽いという見方が可能な場合はあります。
 しかし、次のように判断する裁判例もありますので、飲酒事案において、経緯等に鑑み、計画的犯行でないことは非難の程度を低めないと判断されることもあり得ます。

○ 松山地判令和5年7月31日・殺人等
「犯行動機は、被害者に対する身勝手な逆恨みであり、酌量の余地は全くない。被告人は、酒に酔った上、包丁を持ち出して傷害罪で服役したことがあり、同じ過ちを犯さないように自制しなければならなかったにもかかわらず、その後も飲酒をやめることなく、本件当日も、飲酒の上、脅すためとはいえ包丁を持ち出した結果、持っていた包丁で被害者を刺し殺すに至っているのであるから、計画的犯行でないからといって、非難の程度が軽くなるものではない。
 以上によれば、被告人の刑事責任は、誠に重い。
 そこで、被告人が、飲酒をすると気が大きくなって粗暴になることを自覚し、本件犯行の原因が酒にあるとしながら、今後も飲酒をやめることはできないと述べていることを被告人に不利な情状として若干考慮して、主文の刑を定めた。」

 刑事裁判では、飲酒したという事情だけでなく、計画性の有無、事件の動機・経緯、行為の危険性等を総合して刑が決まることになりますので、飲酒して酔っ払っていたという事情のみで、刑が軽くなるとも重くなるともいえませんが、社会情勢の変化にともない、以前よりも飲酒事案に関して厳しい評価をしているように思われます。

 過去にたびたび飲酒して事件を起こしていた場合などは、有利な事情とは評価されないことが多く、次のように判断された裁判例が参考になります。

 ○ 宮崎地判平成22年7月26日・殺人未遂
「弁護人は、本件が飲酒の影響によるものであることを被告人に有利に考慮すべきであると主張する。しかし、被告人がこれまで少なからず飲酒によるトラブルを起こしてきたこと、それにもかかわらず、犯行当日も自ら飲酒した末に本件犯行に及んでいることに照らせば、これを被告人に有利に考慮することはできない。」
○ 東京地判平成22年9月13日・強盗強姦未遂等
「被告人は、自らがアルコール及び薬物を摂取すると粗暴犯や性犯罪に及ぶ危険があることを知っており、実際に事件を複数回起こしている以上、これを被告人に量刑上有利な事情として考慮することはできない。」

 飲酒した事情が直接、刑に影響したものではありませんが、飲酒して記憶がないと述べることで、事件に向き合い、反省を深めたと評価される事案よりも、刑が重くなる場合もあります。また、上記で紹介した松山地裁の判決では、「今後も飲酒をやめることはできないと述べていることを被告人に不利な情状として若干考慮」すると判断されており、飲酒行為との向き合い方についても刑を決める事情と評価されることになります。

 ○ 熊本地判平成22年10月8日・強姦等
「被告人は、各犯行について聞かれても、記憶がないので答えようがない旨を繰り返し述べるだけであって、犯行から1年以上が経過した現在まで、積極的に各犯行を省みようとしたことは窺われない。また、被告人は、今後すべきことについて聞かれた際も、被害弁償のほか、酒を飲まず、病気の適切な治療を受けることである旨の発言に終始し、犯行の原因が飲酒と薬の過剰摂取のみにあるかのような態度を取っている。これらの事情からすれば、被告人には、本件各犯行を自己の犯罪として直視し、これと真摯に向き合う姿勢が欠けていると言わざるを得ない。」

 

 後日投稿する「飲酒と犯罪(その2)」では、飲酒の影響でどのような症状が生じるのか整理し、飲酒等の影響で、心神喪失や心神耗弱とされた裁判例を紹介します。
 同じく「飲酒と犯罪(その3)」では、飲酒して自動車を運転した場合の犯罪について整理します。
 興味がある方はご覧ください。

以上

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★