英文契約書作成の実務②~約因(consideration)~
英文契約書の前文では、“in consideration of mutual agreements”という表現が定型的に用いられることが多いです。
この文脈における“consideration”という語は、「約因」と訳されます。「約因」とは、英米法における概念であり、強制可能な契約が有効に成立するための要件として、対価性を求める考え方です。ただし、例えば経済的な対価が支払われる場合、その金額が小さくても「約因」を認めるための対価としては十分であると考えられているため、実際のビジネス上の契約で「約因」の有無が問題になることはほとんどないと考えられます。
また、英文契約書では、前文の部分に、上記のような定型的な表現が多く用いられています。しかし、実際に、契約成立の有効要件である「約因」が存在するか否かは、契約の実質的な中身を見て判断すべき事項です。そのため、前文の中で「約因」について指摘することは、法的には重要な点とはいえません。
なお、英文契約書の実務からは少し話がずれますが、例えば親しい家族間で合意をする際などには、単なる贈与をすることもあり、対価が必然というわけではありません。日本法上は、贈与契約も典型契約の一類型とされていますが、英米法では、対価の支払等がまったくなければ、「約因」が存在しないために契約が強制可能なものとして扱われないことにもなり得ます。
弁護士/英国弁護士 中井淳一
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★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★