判例紹介(令和6年7月18日東京地裁)
2024年8月
弁護士 虫本良和
2024年(令和6年)7月18日、東京地方裁判所(民事第37部)は、犯人隠避教唆の被疑事実で逮捕・勾留されていた元弁護士が原告となり、横浜地検特別刑事部の検察官が行った取調べにおける違法性を主張していた国家賠償請求訴訟において、被告(国)に対して、原告に110万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
元弁護士は、取調べに対して、一貫して黙秘権を行使していましたが、取調べ担当検察官が、元弁護士を侮辱するような言動を繰り返しながら、執拗に取調べを継続していたことから、裁判ではこの取調べの違法性が問題となっていました。
判決は、「身体の拘束を受けている被疑者に取調べのために出頭し、滞留する義務があると解することが、直ちに被疑者からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことを意味するものでないことは明らかである」とする平成11年3月24日最高裁判決を引用し、被疑者が黙秘の意思を表明した後、取調べを継続したこと自体をもって、憲法及び刑訴法が保証する黙秘権を侵害するものということはできないとの判断を示しました。
一方、検察官が、黙秘権を行使する旨を明示した原告に対し、「お子ちゃま」「ガキだよね」「うっとうしいだけ」など、ことさらに侮辱的又は揶揄する表現を用いて繰り返し非難する取調べを行ったことについて、「これを受ける者が反論をせずに看過することが困難な程度の人格的に非難を繰り返すことにより、その者に黙秘を解いて何らかの供述をさせようとしたものと評価せざるを得ず、黙秘権の保障の趣旨にも反するというべきである」とし、検察官の具体的な言動については、「社会通念上相当と認められる範囲を超えて、原告の人格権を侵害するものと言わざるを得ず、国家賠償法1条1項の適用上違法」である旨の判示を行いました。
この判決に対して、原告側は、黙秘権侵害に関する主張が一部認められなかったこと等を理由に控訴しています(被告側は控訴せず。)。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★