刑事裁判の証拠の閲覧・謄写及び千葉地方検察庁(本庁)の実情
2024年5月
弁護士 菅 野 亮
1 刑事訴訟法の検察官請求証拠に関する弁護人の閲覧、謄写に関する規律
刑事裁判で使用される証拠は、捜査機関において収集・作成され、検察官が、自らの立証に必要と考えた証拠(検察官請求証拠)について、証拠調べ請求を行います。
弁護人は、検察官請求証拠の内容を検討して、弁護方針をたてたり、証拠意見を述べる必要がありますので、裁判の前に検察官請求証拠の検討を行う必要があります。
刑事訴訟法に、弁護人が検察官請求証拠の閲覧・謄写をすることについて、次のような定めがあります。公判前整理手続に付されていない事件については、刑事訴訟法299条が適用され、「あらかじめ」、「閲覧する機会」を与えなければならないことになっています。
第二百九十九条 検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し、相手方に異議のないときは、この限りでない。 |
もっとも、実務においては、弁護人が「閲覧」だけでなく、「謄写」の申請を行い、特に問題なく、それが認められています。
裁判員裁判対象事件など、公判前整理手続に付された事件については、刑事訴訟法316条の14が、証拠書類に関して「弁護人に対しては、閲覧し、かつ謄写する機会」を与えることにしており、「閲覧」だけでなく、「謄写」を行うことが、法律上の権利として認められています。
第三百十六条の十四 検察官は、前条第二項の規定により取調べを請求した証拠(以下「検察官請求証拠」という。)については、速やかに、被告人又は弁護人に対し、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、当該各号に定める方法による開示をしなければならない。 一 証拠書類又は証拠物 当該証拠書類又は証拠物を閲覧する機会(弁護人に対しては、閲覧し、かつ、謄写する機会)を与えること。 |
2 千葉地方検察庁における閲覧・謄写の実情
検察官請求証拠は、裁判所で証拠調べが行われるまでは、検察官が保管していますので、弁護人が閲覧、謄写を行う場合、検察庁に出かけ、閲覧室などで、検察官請求証拠を閲覧、謄写することになります(千葉地方検察庁の本庁にも、閲覧用の部屋があり、閲覧の申請を行って、証拠を閲覧することができます。)。
謄写を行う場合、各地で実情が異なりますが、①弁護人(あるいは、弁護士事務所の職員)が自ら検察庁に設置されているコピー機を利用して、コピーをとったり(持参したデジタルカメラ、スキャナー等で謄写を行う場合もあります。)、②謄写業務を担当する司法協会等の業者に謄写を申請しています。
なお、千葉地方検察庁の場合(ただし、本庁の扱いで、支部を含みません。)、弁護人が自ら閲覧、謄写を行うこともできますが、謄写業務を担当する有限会社法務弘済会に謄写の依頼を行うことができます。
有限会社法務弘済会に謄写を依頼した場合、令和6年4月現在の値段は次のとおりです。
モノクロ 1枚 40円
カラー 1枚 60円
スキャン 1枚 40円
CD-R 1枚 200円
DVD-R 1枚 250円
BD-R 1枚 300円
これまで、謄写は、紙で作成された検察官請求証拠等を紙にコピーすることしかできませんでしたが、令和6年4月から、検察官請求証拠等をスキャンしてPDFファイルとしてデータの提供を受けることが可能となりました。
現状、コスト的には、スキャンも紙のコピーと同じ値段であり、価格面でのメリットはないのですが、今後、刑事裁判手続のIT化が進み、検察官請求証拠がデジタル開示されるようになれば、このような作業及びコストが省略できるようになるかもしれません。
以上
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★