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コカインの密輸事件の判決

よくあるご質問刑事事件

2024年6月    

弁護士 菅 野  亮 

 千葉地裁において、コカイン密輸事件の判決があった。

  事案は、コカイン入りの塊を約80個(ゴム様のものに包まれた麻薬であるコカインの塩酸塩を含む白色固形物約900g)ほど、体内に隠匿して輸入しようとしたが、税関検査で発見され、逮捕されたものである。

  被告人は、営利目的で、違法薬物を密輸しようとしたことを認めていた。
  判決においても、麻薬及び向精神薬取締法65条2項、1項1号、関税法109条3項、1項、69条の11第1項1号、刑法60条の成立が認められた。

  判決は、懲役5年、罰金150万円であった(その他、没収等がある。)。
  求刑は、懲役8年、罰金200万円である。

  直近で経験した覚醒剤の密輸(約1キロ)で、求刑は、12年、罰金500万円であったことと比べ(結論は無罪)、コカインの密輸の量刑は軽い(なお、覚醒剤密輸事案は、実際の判決結果と比べても、千葉地検の求刑が量刑傾向に比して重い印象がある。)。

 

 コカイン密輸の場合、麻薬及び向精神薬取締法65条2項に違反することになるが、その法定刑は、「営利の目的で前項の罪を犯した者は、一年以上の有期懲役に処し、又は情状により一年以上の有期懲役及び五百万円以下の罰金に処する」と定められている。

  覚醒剤密輸の場合、覚醒剤取締法41条2項が適用され、「営利の目的で前項の罪を犯した者は、無期若しくは三年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは三年以上の懲役及び一千万円以下の罰金に処する」とされているので、我が国においては、コカインの密輸よりも、広く流通する覚醒剤の密輸に対する厳しい姿勢がその法定刑からもうかがえる。

 

 ただし、実際の密輸の運搬役(運び屋などとも呼ばれる。)は、自らが運ぶ運搬物が、厳密にどのような薬物なのかは密輸組織から聞かされていない。密輸組織としても、これから運搬するのは、覚醒剤取締法違反となるフエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン塩類である、などとは説明していない。

 刑法の解釈では、覚醒剤を含む違法薬物であるとの未必的な認識があれば、覚醒剤取締法違反となるが、「やばいドラッグだ」との認識があって有罪になることは妥当な解決といえよう。

 同じように違法薬物を密輸しても、その中身が、覚醒剤か、コカインかで、あるいは大麻であるかで量刑が大きく異なるが、法定刑の差や故意の法解釈からすればやむを得ない。

  なお、実際には、コカインを密輸したが、被告人が、密輸する違法薬物を大麻と誤認していた事例で、大麻取締法の限度で共同正犯が成立するとした事例もあり、その認識によって、成立する犯罪が客観的に密輸した薬物と異なる場合もある(那覇地裁令和3年12月16日)。

 

 覚醒剤密輸事件は、裁判員裁判となり、最高裁が量刑データベースを検察官や弁護人にも閲覧可能としていることから、その量刑傾向を把握することができるが、コカイン密輸は、そのようなデータベースもなく、公刊されているコカイン密輸の裁判例もさほど多くないため、弁護人にとって量刑傾向の把握は容易ではない。

  しかし、過去の裁判例等を見る限り、懲役5年が重すぎるということはないように思われる(判決においても、同種事案の量刑傾向を参考にしたと述べられており、裁判所には参照可能なデータベースがあるものと思われる。)。

  裁判では、母国で待つ家族の手紙・写真を証拠として請求し、検察官が同意したことにより、わずかではあるが、被告人の母国における事情なども伝わり、その点も判決において有利に考慮されたと思われる。

以上 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★