ユーチューバー(YouTuber)の動画撮影行為等と犯罪(その1)
弁護士 菅 野 亮
1 ユーチューバーの動画撮影行為や動画投稿行為が、犯罪として起訴され、裁判になることがあります。
動画内の発言が、脅迫、名誉棄損になるなどのケースが典型的な事例かと思われますし、私人逮捕系といわれるユーチューバーが逮捕される事件も発生しています。
また、動画の撮影・投稿行為が、信用毀損罪や業務妨害罪となることもあります。
公刊されている裁判例から、ユーチューバーの動画撮影行為や動画投稿行為が犯罪とされた事件を紹介します。
2 ユーチューバーの動画撮影行為が業務妨害罪に該当するとされた事例(名古屋高裁金沢支部平成30年10月30日)
名古屋高裁金沢支部平成30年10月30日判決では、ユーチューバーの行為について、次のとおりまとめられています。本件では、警察官が覚醒剤と誤認するような物をわざと警察官の前で落として全力で逃げ、最後は「砂糖、砂糖」などと言ってネタばらしをする一連の様子を動画で撮影する行為が問題となっています。
「被告人は,対応に当たったB臨時相談員に地理案内を求める振りをし,打合せどおりAからかかってきた電話に応じて,ポケットから携帯電話機を取り出すとともにポリ袋1個(以下「本件ポリ袋」という。)を歩道上に落とした。
本件交番内で別件対応中であったC警部補は,被告人が本件ポリ袋を落とした様子を現認し,その形状等から覚せい剤事犯の容疑があると考えて,職務質問等を行おうと外に出たところ,午後3時59分頃,被告人が同ポリ袋を拾い上げると同時に全力で走り出したため,その後を追った。
被告人は,C警部補の制止の警告に従わず逃走を続けたが,Aの撮影範囲を越えた辺りで走るのをやめ,午後4時頃,同警部補が被告人を確保した。被告人は,C警部補の求めに応じて本件ポリ袋をポケットから出し,その中身を尋ねられると,「砂糖,砂糖」と笑いながら答えるなどした(以下,被告人が本件交番前で本件ポリ袋を落としてから走って逃走した一連の行為を「本件行為」という。)。」
この事件では、「被告人を被疑者とする覚せい剤所持の事案が認知され,被告人に対する職務質問等のため,福井署当直員の警察官11名,C警部補ら本件交番を含む交番勤務の警察官8名並びに福井県警察本部所属の警察官8名及び警察職員1名が被告人の逃走現場に臨場するなどして職務に従事したが,これらの警察職員は,この間,刑事当直,警ら活動,交番勤務等当時従事すべきであった業務(以下「本件業務」という。)を行うことができなかった」とされています。
なお、被告人は、「動画を作成し,8月29日頃ユーチューブに投稿したが(投稿名「×× byD」),その後これが大きく報道されたため,9月6日ないし翌7日頃,動画を非公開とし,同月8日,本件により逮捕」されています。
3 本件事案における偽計業務妨害罪の成否
業務妨害罪は、刑法233条に次のように規定されています。
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
今回の事例では、①覚醒剤と誤認するような物(ポリ袋)を落として逃走する行為が、「偽計」といえるのか、そして、②警察官の「業務を妨害」したといえるのかが問題となりました。
本件判決では、「偽計」かどうかについては、「被告人の本件行為は,覚せい剤の所持者が逃走を図ったものと警察官を誤信させるのに十分であり,これが偽計に当たることは明らかといえる」と判断しています。
また、「業務を妨害」したといえるかについては、「C警部補らの警察官としては,本件行為を現認しただけでは,これが薬物所持を仮装したものかどうかを直ちに判断することができず,逃走を図ったとみられる被告人を確保し,職務質問を始めとする覚せい剤所持容疑の解明に向けた所要の業務を行う必要があったといえ,そのために,本署への連絡や応援要請を通じ,現場の臨場,被告人に対する職務質問,任意同行や取調べ等(以下「本件捜査」という。)を余儀なくされた結果,本件行為がなければ遂行されたはずの関係警察職員の本来の職務(本件業務)が妨害されたことも,また明らかに認められる」と判断しました。
この事案では、「被告人は,平成28年頃から動画共有サービスのユーチューブに自作の動画を投稿し,再生回数に応じて支払われる広告収入を得ようなどと考えていたが,投稿した動画の再生回数等は低迷していた」などと認定されており、無理して警察をからかうような動画を撮影して再生回数を伸ばそうとしたものと思われますが、その結果、逮捕等されることとなり、結局、ユーチューバーとしては、より困難な状況に追い込まれてしまったといえます。
ユーチューバー(YouTuber)の動画撮影行為等と犯罪(その2)では、ユーチューバーの動画撮影行為等が、窃盗、威力業務妨害、信用毀損に問われた事例を紹介します。
以上
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★