「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が処罰する行為と法定刑
2023年10月
弁護士 菅 野 亮
1 「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が令和5(2023)年7月13日から施行され、次の行為が処罰されることになりました。
(1)性的姿態等撮影罪
① 正当な理由がないのに、ひそかに、「性的姿態等」(性的な部位、身に着けている下着、わいせつな行為・性交等がされている間における人の姿)を撮影
② 不同意性交等罪に規定する各行為により、同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態にさせ、又は、相手がそのような状態にあることに乗じて、「性的姿態等」を撮影
③ 性的な行為でないと誤信させたり、特定の者以外はその画像を見ないと誤信させて、又は、相手がそのような誤信をしていることに乗じて、「性的姿態等」を撮影
④ 正当な理由がないのに、16歳未満の子どもの「性的姿態等」を撮影(相手が13歳以上16歳未満の子どもであるときは、行為者が5歳以上年長である場合)
上記各行為については、「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」とされます。
(2)性的影像記録提供等罪
① 撮影・記録された性的姿態等の画像(「性的影像記録」)を特定・少数の者に提供
上記行為については、「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」
② 「性的影像記録」を不特定・多数の者に提供又は公然と陳列
上記行為については、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」
(3)性的影像記録保管罪
提供又は公然陳列の目的で、「性的影像記録」を保管
上記行為については、「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」
(4)性的姿態等影像送信罪
不特定・多数の者に、「性的姿態等」の影像を送信
上記行為については、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」
(5)性的姿態等影像記録罪
送信された「性的姿態等」の影像を、そのようなものであると知りながら、記録
上記行為については、「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」
2 刑罰(付加刑)として性的姿態等の画像などの没収ができる規定も新設されています(没収の対象は、「性的姿態等撮影罪又は性的姿態等影像記録罪の犯罪行為により生じた物」、「いわゆるリベンジポルノ法違反の罪の犯罪行為を組成した物等」)。また、押収物に記録された性的な姿態の画像等の消去・廃棄の規定も新設されましたので、行政手続として、以下の措置をとることが可能となります。
「電磁的記録の対象画像」→ 消去又は押収物の廃棄
「それ以外の対象画像」 → 押収物の廃棄
「いわゆるリモートアクセス捜査のアクセス先に残存する電磁的記録の対象画像」→ 電磁的記録の消去命令
3 いわゆる盗撮行為については、各都道府県の迷惑防止条例違反で処罰されてきました。ただし、迷惑防止条例は、都道府県ごとに処罰対象が異なります。児童ポルノの製造も処罰されますが、その保護の対象は児童に限られています。
「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」は、これまで盗撮や児童ポルノ製造で処罰された行為を含め、自らの意思に反して自分の性的な姿を他人に見られない権利を守るため、一定の行為を処罰するものです。
4 もっとも、撮影行為等について「正当な理由」があれば処罰されることはありませんし、性的な姿態等のうち、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの」を撮影する行為が処罰されます。
法務省のQ&Aによれば、「正当な理由」がある場合としては、次の例示がされています(法務省のQ&A Q4「性的姿態等撮影罪で処罰されないこととなる「正当な理由」とは、どのようなものですか。」)。
「性的姿態等をひそかに撮影する行為について『正当な理由』がある場合としては、例えば、○医師が、救急搬送された意識不明の患者の上半身裸の姿を医療行為上のルールに従って撮影する場合などが考えられます。16歳未満の者に対する撮影行為について『正当な理由』がある場合としては、例えば、○親が、子どもの成長の記録として、自宅の庭で上半身裸で、水浴びをしている子どもの姿を撮影する場合 ○地域の行事として開催される子ども相撲大会において、上半身裸で行われる相撲の取組を撮影する場合などが考えられます。」
【参考 法務省 Q&A】
https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html#Q4-2
以上
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★