性犯罪関係の法改正①「罪名と成立要件の変更」
2023年8月
弁護士 虫本良和
2023年(令和5年)6月16日、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」が成立し、性犯罪に関するいくつかの重要な改正がなされました。上記改正法は6月23日に公布されています。
今回の改正の主な内容の1つとして、強制わいせつ罪・強制性交等罪等の名称及び成立要件の変更が挙げられます。
1 罪名の変更
具体的には、罪名が、以下のとおり、変更されました。
・(改正前)強制性交等罪(刑法177条)、準強制性交等罪(178条2項)
→(改正後)不同意性交等罪(177条)
・(改正前)強制わいせつ罪(176条)、準強制わいせつ罪(178条1項)
→(改正後)不同意わいせつ罪(176条)
2 成立要件の変更
従来の強制性交等罪や強制わいせつ罪の成立要件とされていた「暴行・脅迫」「心神喪失・抗拒不能」が変更されました。不同意性交等罪及び不同意わいせつ罪については、以下のア又はイの場合に、わいせつな行為を行ったことが成立要件とされました。
ア 以下の8つの項目の対象行為又は対象事由(その他これらに類する行為又は事由)の存在に加えて、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じ」ること(176条1項、177条1項)。
(8項目)
①暴行又は脅迫
②心身の障害
③アルコール又は薬物
④睡眠その他の意識が明瞭でない状態
⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない
⑥予想と異なる事態に直面した恐怖又は驚愕
⑦虐待に起因する心理的反応
⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益の憂慮
(その他これらに類する行為又は事由)
イ 「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じ」ること(176条2項、177条2項)。
上記の改正は、公布日(2023年(令和5年)6月23日)から20日経過後(同年7月13日)から施行されています。
大幅に要件が変更されたことで、実務にどのような影響があるか、とりわけ、処罰の範囲が不明確になることで、社会生活に委縮効果が生じないかに留意していく必要があると考えます。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★