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裁判員選任手続き②

2023.05.30ブログ

弁護士 虫本良和

 裁判員裁判では、公判に先立って行われる選任手続を通じて、裁判員と補充裁判員が選ばれます(裁判員選任手続き①)。

 選任手続期日では、裁判員候補者に対する質問手続や、辞退希望についての判断が行われた後に、抽選によって裁判員(6名)と補充裁判員(通常2、3名)が選ばれることになります。

 

 裁判員と補充裁判員は、それぞれの職務について、法令に従って公平誠実に行うと誓う宣誓(裁判員法39条)を行い、正式に選任されることになります。

 この宣誓の手続きに際して、裁判長から裁判員と補充裁判員に対して、「刑事裁判のルール」についての説明がなされることが通常です。

 ここで説明される刑事裁判のルールの中で特に重要なものとして説明されるのは、①証拠裁判主義、②立証責任、そして、③証明基準の3つです。

 ①証拠裁判主義とは、被告人が有罪か無罪かは、法廷に現れた証拠だけに基づいて判断しなければならないというルールです。例えば、新聞やテレビの報道やインターネット上の情報等で事件や被告人について見聞きしたことがあっても、それを判断材料にしてはいけないということになります。

 ②立証責任とは、被告人が有罪であることは、検察官が証明しなければならないということです。逆にいえば、被告人(弁護人)が無罪であることを証明する必要はないということです。

 ③証明基準とは、立証責任を負っている検察官がどの程度の証明をすれば有罪と認定してよいかという考え方についてのルールであり、裁判員に対しては、「証拠を検討した結果、常識に従って判断し、被告人が起訴状に書かれている罪を犯したことは間違いないと考えられる場合に、有罪とすることになります。逆に、常識に従って判断し、有罪とすることについて疑問があるときは、無罪としなければなりません」といった言い方で説明されることが一般的です。

 ②や③は、検察官に高いハードルを課した「偏った」ルールに思えるかもしれませんが、国の権力(捜査権限)を駆使して証拠を集めることができる検察官と比較して、一市民である被告人はそもそも権限や立場が圧倒的に劣っているというのが実態です。そして、何よりも刑事裁判のルールは、その裁判の被告人となった人のためだけでなく、いつ、どのような人が被告人の立場とされた場合であっても、間違って処罰されないために定められ、守られてきたものです。また、裁判員・補充裁判員に選ばれた方々にとっては、自分たちが間違って誰かを有罪にするということをせず、難しい事件でも正しい判決をするために不可欠なルールであるといえます。

 選任手続きにおいて、裁判長からこれらの刑事裁判のルールの説明を受けるとき、裁判員・補充裁判員の方々は、非常に真剣に聞き入っており、時には頷きながら説明を聞いている場面をよく目にします。

 大切なルールであるからこそ、法律家もこのルールを常に意識して、守り続ける必要があると考えます。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★