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医師の法的責任とリスク④ ~診療録の改ざん等~

2022.11.15ブログ

令和4年10月
弁護士 金子達也

 過去の裁判例を見ると、医師が診療録等の医療記録を改ざんしようと考える動機は、①医療事故の隠蔽と、②診療報酬の不正請求に、大別されるように思われます。
  もちろん、どちらの動機も改ざんの正当理由にはなりませんし、改ざんにつき刑事責任を問われるリスクもあるので、診療録の改ざん等は絶対にやってはいけないと考えるべきです。
  参考までに、実際に医師の刑事責任が問われた裁判例を紹介します。

 

 医療事故の隠蔽目的でのカルテの改ざんに関しては、大学病院の医療事故(チーム医療)を隠蔽する目的でカルテを改ざんした医師が、証拠隠滅罪(刑法104条)で有罪とされた事例があります(東京地裁H16.3.22判決)。
  証拠隠滅罪は、「他人の」刑事事件に関する証拠を隠滅、偽造、変造等した場合に成立する犯罪なので、医師が「自己の」医療事故を隠蔽するために自らカルテを改ざんした場合には、原則、証拠隠滅罪は成立しません。
  しかし、チーム医療のように、複数の医師が関与する現場での医療事故の場合、当該カルテが「自己の」医療事故の証拠であると同時に、チームに属する「他の医師の」医療事故に関する証拠であるとも捉えられて、上記裁判例のように起訴されて刑事処罰を受ける危険があります。
  また、「自己」の医療事故に関する証拠であっても、例えば、看護師に指示して当該カルテを改ざんさせたような場合は、証拠隠滅の教唆犯(刑法61条)として処罰される危険もあります。
  その類似事例として、自己の医療事故を隠蔽するため、分娩台帳を改ざんした上、看護師に法廷で虚偽の証言をさせた医師が、偽証教唆罪(刑法169条、61条)で有罪とされた事例があります(甲府地裁H14.3.29判決)。

 

 医療事故にかかわらず、医業に関して何か問題が起きた場合には、様々なリスクを念頭にいれつつ適切な方法で身を守る必要があります。
  その際にカルテの改ざんなどの不適切な行為に及んでしまうと、当該改ざんについての刑事責任までは問われなかったとしても、それが発覚することにより、医師としての信用を損ねたり、民事訴訟で裁判官に不利な心証をとられてしまうリスクが生じてしまうことも否定できません。   
  ですから、医療事故など、医業に関する何らかの問題への対応を迫られた場合は、迷わず専門家(弁護士)に相談することをお勧めします。

 

 診療報酬の不正請求は、医師法4条(医師の相対的欠格事由)4号の、「医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者」の典型例と捉えられており、それ自体、免許取消や医業停止の理由になり得る危険のある行為です。
  実際に、電子カルテを改ざんして、実際には使っていない薬剤を投与したように装って診療報酬をだまし取った医師(公務員)が、公電磁的記録不正作出・同供用罪(刑法161条の2第2項、3項)、詐欺罪(刑法246条)で有罪とされた事例もあります(津地裁R3.4.22判決)。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★