遺骨は誰のもの
ある方(仮に、Aさんとしましょう)がお亡くなりになったとして、遺骨の所有権が誰にあるのか考えてみましょう。
Aさんは、生前宗教団体を興しており、その団体の信者と起居を共にし、なくなった後、信者が火葬に付し、葬儀を行って、信者がAさんの遺骨を占有していました。
一方、Aさんは生前に養子縁組をしており、Aさんに頼まれて先祖の墓を管理していました。
Aさんの養子は、信者に対してAさんの遺骨を自分に渡すように要求したのですが、信者はこれを返しませんでした。そこで、Aさんの養子は、遺骨を自分に渡すように信者に対して訴訟を起こしました。
このような事案が最高裁まで争われました。
最高裁が出した結論は、「Aさんの養子に遺骨を引き渡すべき」でした(最高裁平成元年7月18日判決家裁月報41-10-128)。
最高裁は、「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件遺骨は慣習に従つて祭祀を主宰すべき者である被上告人に帰属したものとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。」とだけ判断しており、そっけないことこの上ないのですが、この意味について考えてみましょう。
最高裁は、Aさんの養子は、「祭祀を主宰すべき者」であると判断しているのですが、この「祭祀を主宰すべき者」という言葉は民法にでてきます。
「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」(897条1項)
ところが、この条文には、「遺骨」という言葉が出てきません。「系譜、祭具及び墳墓」の所有権が「祭祀を主宰すべき者」(以下、「祭祀承継者」)にあることは、この条文から明らかなのですが、遺骨については条文に規定されていないのです。
そのため、遺骨については誰のものかについて学説上争いがあり、喪主に所有権があるという説と祭祀承継者に所有権があるという説等があります。
最高裁は、この判決で後者、つまり祭祀承継者に所有権があるという説を採用しました。
Aさんの養子が祭祀承継者ですから、遺骨の所有権を有するということになります。
Aさんが、信者に自分の遺骨を委ねたいというときはどうしたらよいでしょうか。
先ほど引用した民法897条1項但書を見てください。
「被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」
つまり、Aさんが生前に祭祀主宰者指定しておけばよいということになります。
注意すべき点が2つあります。
まず、この指定は明確にしておかなければいけないということです。書面がない事案では、裁判所はこの指定が行われたとは認めてくれないでしょう。
また、Aさん自身が祖先の祭祀主催者である場合は、祖先の祭祀ごと指定された方は承継するということになります。Aさんの遺骨だけでなく、Aさんの先祖の系譜、祭具及び墳墓の所有権までその方が承継するということになるのです。その点を明確に認識した上で、指定を行わなければならないということになります。
2021年5月21日
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★