知り合いにそそのかされて持続化給付金をだまし取ってしまいました。自首と全額返金を考えているのですが,その場合でも,裁判を受けて刑務所に行くことになりますか?
持続化給付金詐欺の場合,末端関与者(誘われて名義を貸すなどして自らが加担したに過ぎない人)であれば,自首及び全額返金が考慮され,仮に起訴されても執行猶予判決が宣告される可能性が期待できます。
更に適切な方策を採って検察官を説得できれば,起訴猶予処分が望める可能性もあります。
詳しい見通しは事案の内容をお聞きした上での判断になりますので,まずは御相談ください。
参考までに,これまでに出た裁判例等を分析して考えられる量刑傾向をお伝えいたします。
1 持続化給付金詐欺に関する量刑傾向は,未だ完全に定着しているとは言い難いものの,報道等によれば,各地で持続化給付金詐欺に関する判決が出始めているようであり,それらの判決内容に照らすと,執行猶予判決と実刑判決の分水嶺は,概ね次のようになっていると思われます。
2 分水嶺についての考え方
⑴ 返金の有無
実際に受け取った給付金を全額返済できれば執行猶予判決を得やすくなりますが,返済できない場合には得にくくなります。
ただし,被害額が大きくなると,全額返金しても執行猶予判決は得にくくなりますし,そもそも全額返金は非常な困難を伴いますので,結果,実刑判決になる危険が高くなります。
⑵ 被害金額の多寡
1件にしか関与しておらず被害金額が少なければ執行猶予判決を得やすくなりますが,数件に関与しており被害額が多額になれば実刑判決の危険が高くなります。
判例データベースによれば,那覇地裁では,自分名義で給付金100万円をだまし取ったケースに対し,全額返金したことなどが考慮されて,懲役1年6月執行猶予3年が言い渡されています。一方,報道によれば,同じ那覇地裁では本人,母及び妹(合計3名)名義の3件で給付金合計300万円をだまし取ったケースに対し,甲府地裁では自分ともう1人の知人(合計2名)名義の2件で給付金合計200万円をだまし取ったケースに対し,いずれも懲役2年6月執行猶予3年間の判決が言い渡されています(報道内容からははっきりしませんが,おそらく全額返金したのではないかと思われます。)。
また,裁判所のホームページにも,名古屋地裁一宮支部に置ける同様の判決結果が紹介されています(この事案では,大麻の微量所持も起訴されているものの,3件300万円の被害で共犯者による全額返済等が考慮されて,上記同様の執行猶予判決が出ています。)。
これらの裁判例からは,自分名義で給付金100万円をだまし取ったケースであれば懲役1年6月程度,更に知人らを巻き込んで給付金2~300万円をだまし取ってしまったケースでは懲役2年6月程度が言い渡され,全額返済ができれば執行猶予判決が望めるという量刑傾向が見えてきます。
他方,これまでの詐欺事犯の裁判例に照らせば,仮に被害額が500万円を超えてしまった場合には,全額弁償しても執行猶予判決は得難くなっていく傾向がありますので,注意が必要です。
⑶ 詐欺グループ内における役割
詐欺グループ内の役割として首謀者と末端関与者とを比較した場合,末端関与者は執行猶予判決を得やすい傾向にありますが,首謀者は実刑の危険が高くなります。
持続化給付金詐欺のような事案の場合,さらに,中間層として,自分名義で100万円の給付金を得たことで味を占め,家族や周りの人にもそれを勧めてしまったという,中間リクルーター的な立場の人も散見されます。
中間リクルーターと評価されてしまうと,末端関与者とは言い難いものの首謀者とまでは言えないという微妙な位置付けになり,その量刑判断も難しくなります。
もっとも,前記⑵で紹介した懲役2年6月執行猶予3年間の判決が言い渡された裁判例2件は,いずれも,このような中間リクルーターの立場にある被告人への判決です。
つまり,仮に身内や知人を誘って詐欺に加担させてしまった場合であっても,誘った相手が1,2名にとどまる場合には,返金等の努力次第で,執行猶予判決が期待できると思われます。
3 結論
このような量刑傾向を踏まえれば,末端関与者であれば,早期に全額返金の努力をすることにより,執行猶予判決が期待できますし,自首した上で再犯防止の環境を整えるなどの先手を打てば,それらが考慮されて起訴猶予処分としてもらえる可能性もあります。
もっとも,その判断や,そういった成果を得るための具体的方策は,事案の内容ごとに異なりますので,まずは,御相談ください。
2021年5月2日
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★