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責任能力に関する論考が季刊刑事弁護に掲載されました

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2021年4月  
弁護士 菅 野 亮

 「季刊刑事弁護」(106号,現代人文社)において,「ケース研究 責任能力が問題となった裁判員裁判」が連載されています。今号は,東京高裁令1・8・29判決(原審は,静岡地裁浜松支部平成29・11・24判決)が取り上げられています。

 このケースは,統合失調症の被告人が起こした事件について,原審が,完全責任能力を認めたのに対し,控訴審は,心神喪失であると認定し,無罪となったものです(確定)。 当職が,弁護士コメントを執筆していますので,興味ある方はご覧下さい。

 このケースは,被告人が統合失調症で,かつ,かなり症状が悪化していたことは争いありません。
 他方,事件直前まで,被告人は車を普通に運転するなどしていました。
 原審のように,普通に車が運転できるのであれば,責任能力もあるという考え方もあるかと思います。

 他方で,本事例にコメントしている精神科医の五十嵐禎人教授は,「統合失調症の急性増悪期においては,統合失調症の症状がその人の判断や行動に与える影響は甚大なものであ」り,「たとえ,正常とみえるような行動がみられたとしても,そのことを過大に評価することは,少なくとも精神医学的には不適切である」と指摘しています。

 統合失調症の被告人の責任を考える上で,病状の経過等を丁寧にみる必要があるとする五十嵐教授の指摘は大変示唆に富むものです。

 なお,控訴審は,緊張病性興奮ということを一つの論拠に心神喪失としているのですが,五十嵐教授によれば,「資料で得られる情報の範囲では,本件犯行前後の被告人を緊張病状態と診断することは適切とはいえないように思わ」れ,「精神運動興奮と評価する方が,精神医学的には,より適切なように思われる」と指摘されています。

 どのような立場で裁判に関与する場合でも,専門家の意見に謙虚に耳を傾けつつも,科学的な正当性について常に考えていく必要があると感じました。

以上

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★