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検察こぼれ話⑨ ~サンズイ~

2021.04.02ブログ

2021年4月2日   
弁護士 金 子 達 也   

 

1 警察官や検察官が使う「サンズイ」という言葉があります。
 その語源は,「汚職」という漢字に使われている「サンズイ」に由来すると言われていました(諸説あるのかも知れませんが,筆者はそう理解していました。)。
 要するに,贈収賄などの汚職事件を指すときに,「サンズイ」という言葉を使ってきたわけです。

2 警察で「サンズイ」事件の捜査を担当する部署は,各地の県警(警視庁)の捜査2課です。
 一方,検察で「サンズイ」事件の捜査を担当する部署としては,東京地検特捜部が有名ですが,例えば地方公務員や県議会議員が関与する「サンズイ」事件などは,各地検の三席検事が,捜査2課のカウンターパートとなって,捜査を取りまとめる機能を果たすのが通常でした。
 筆者は,「サンズイ」事件にはあまり縁がなく,もちろん東京地検特捜部のようなエリート捜査集団とも無縁な(幸せな)検事人生を送ってきたものの,地方に赴任したときには,三席検事として「サンズイ」事件の捜査に関与したこともありました。
  
3 「サンズイ」事件は,殺人事件のように,突然「発生」するものではありません。
 さまざまな端緒を得て,地道な捜査で「掘り起こしていく」ものでした。
 端緒としては,投書や告発などもありましたが,検察における捜査手法としてよく用いられるのは,「脱税事件で押収した帳簿類の解析」から端緒を得る手法でした。
 会社が脱税する大きな動機(理由)の中に「工作資金としての裏金作り」というものがあり,脱税で得た裏金の一部は,「工作資金」として地方公務員や地方議員に流れていくことも多かったからです。
 ですから,脱税事件で押収した帳簿類は「宝の山」とも呼ばれ,「サンズイ」事件が好きな検事は,昼夜明かさず帳簿類を読み込んで解析し,少しでも不審なお金の流れがあれば徹底的に調べ上げ,そこに隠れている「サンズイ」事件の摘発を目指していました。

4 これに対し,各地の警察の捜査2課では,投書や告発などの情報を得て,その裏付捜査等を丁寧に行いつつ,隠れた「サンズイ」事件の摘発を目指す手法が主流でした。
 実際,筆者も,地方の三席検事を任されていた時代には,このような地道な捜査を進めている捜査2課の担当者(課長や管理官)から,相談を受けつつ,立件(逮捕・起訴)できるかどうか,立件するとしてそのタイミングをどうするかなど,かなり突っ込んだ議論を重ねていました。
 地方の三席検事を任されていた時代には,ほぼ毎日のように捜査2課の担当者が尋ねてきて,進行中の複数の「帳場(捜査本部)」での捜査の進捗状況の報告を受けながら,お互い知恵を絞り合うような毎日を送っていました。
 「サンズイ」事件の構図は,どれもみな複雑であり,一朝一夕で立件できる事案などありませんでしたから,そんな困難を乗り越えて「サンズイ」事件を立件できたときは,やはり,とても嬉しかったです。
 特に「首長」を逮捕するような案件では身震いもしましたし,やり遂げた感も半端なく,今でも思い出に残っています。
 ですから,私が三席検事を任された土地の捜査2課のみなさんとは,今でも「戦友」のような付き合いが続いています。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★