検察こぼれ話⑦ ~代行検視~
2021年1月22日
弁護士 金 子 達 也
1 刑事訴訟法229条1項は,「変死者又は変死の疑のある死体があるときは,その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は,検視をしなければならない。」と規定しています。
つまり,変死者又は変死の疑のある死体(以下,「変死体」と総称します。)の検視は,本来,検察官が直接行うべき行為とされています(検視の概念等について興味のある方は,以前筆者がこのホームページに投稿した,ブログ「アンナチュラル?な法医学の話③(異状死と変死)」もご覧ください。)。
2 しかし,実務上は,この「検視」を検察官が直接行うことは滅多にありません。
ほとんどの場合,警察からの変死体発見報告の一報が入ると,検察官は「代行検視をお願いします。」と指揮するだけで,対応を終えてしまいます。
これが,刑事訴訟法229条2項の規定に基づく「代行検視」というものです。
実務は,この代行検視が原則であり,そのための専門職として,警察には「検死官」という,トレーニングを受けた「検視のプロ」がいました。
反面,ほとんどの検察官は,変死体を実際に触ることも肉眼で見ることも無く,必要な情報は,検死官の報告文書である「検視調書」を読んで初めて知ることになるのです。
3 しかし,警察の留置施設等の施設内で発見された変死体については,代行検視に委ねるのではなく,検察官が直接検視を行うのがルールとされていました。
これは,警察の留置施設内で発見された変死体の場合には,警察官による暴行等の疑いも念頭に置いて慎重に見極める必要がある,と考えられていたからです。
それではこの場合には,検察官は,自らが直接死体を触ったり見たりするのかというと,実は,そうではありません。
検察官は,検視のトレーニングなど受けておらず,検視を正しく行えるスキルなど全く身に付けていないからです。
仕方がないので,検察官は,まずは警察の検死官に連絡をして直接検視への協力を要請し,実際の検視作業をお願いすることになります。
その上で,検察官は,検視の場所には赴くものの,検死官の検視作業を遠巻きにながめているくらいのことしかできず,何とも手持ち無沙汰な時間を送るのでした。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★