検察こぼれ話⑤ ~危険な隣人~
1 もう20年以上前の話です。
とある警察署の警察官から,「一人暮らしの女性の郵便受けに男性の裸体写真が投げ込んであった。犯人は女性の隣に住む一人暮らしの男性であることがわかっている。男性の自宅の捜索だけでもしたい。」との事件相談がありました。
この案件を放置していた場合,犯人の男性が犯行をエスカレートさせて,女性方に忍び込むなどの暴挙に出る危険もあるので,早めに釘を刺しておきたいという相談でした。
当時はストーカ規制法などの法整備もなく,この種案件にどのように対応すべきかの先例やマニュアルもありませんでした。
とはいえ,その男性が何をしたかったのかがわからず,男性をいきなり逮捕することも躊躇されました。
そこで,とりあえず「女性の郵便受けに裸体写真を投げ込んで怖がらせた」という脅迫の被疑事実で捜索差押令状を得て,その男性宅を捜索してみようということになりました。
2 その結果,その男性の自宅からは,どういうわけか,大量の,古びた女性用ブーツが発見されました。
しかも,なぜか,両足が揃ったものではなく,いずれも,右足用のブーツだけが綺麗に並べられていたのです。
捜索に立ち会わせた男性は,すぐに,それらは盗んできたものであることを自白し,動機について,「女性が履いたブーツの匂いを嗅ぐと興奮する。しかし右足の匂いじゃないと興奮しない。そこで,女性の家に忍び込んでブーツを盗み,左足用は捨てて,右足用だけをコレクションしていた。」と自白しました。
3 その後,裏付けがとれた何件かの侵入窃盗事件で,男性を逮捕・起訴しました。
男性は初犯だったため,執行猶予判決となりましたが,担当した弁護人は,一人暮らしの自宅を引き払わせて田舎の実家に戻らせ,両親の監督下に置き,カウンセリングを受けさせる手配もしてくださいました。
そのため,隣の女性の安心安全な生活も取り戻すことができました。
4 長く現場の検事をやっていると,奇妙な事件に遭遇することもあります。
そんな筆者にとっても,この事件は,忘れることができない,何とも奇妙な事件でした。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★