検察こぼれ話③ ~東京地検公安部~
2020年12月18日
弁護士 金 子 達 也
1 「公安部」という言葉に独特な響きを感じる方も多いと思います。
戦争中の「特高警察」のような,恐ろしい治安維持部隊を思い出す年配の方もいるかも知れません。
筆者が検事に任官した20数年前には,全国の検察庁に「公安部」「公安係」がありましたが,その後に検察の組織改編が行われ,全国の「公安部」は「特別刑事部」と名を変えました。
社会が安定して,いわゆる「公安事件」も少なくなったことから,昔の「公安部」は役割を終えたと言えるのでしょう。
2 しかし,現在でも,東京地検及び大阪地検には,新しい形の「公安部」が残っています。
筆者も,かつて東京地検公安部麻薬係副部長として勤務していたことがあるので,そのころのお話しを少し紹介します。
当時の東京地検公安部には,公安係,外事係,暴力(銃器)係,麻薬係という4つの係があり,各係にひとりずつ副部長が配置されていました。
これらの犯罪類型(公安事件,外事事件,暴力事件,麻薬事件)は,組織的に行われることが多く,捜査機関の究極の目的は,組織の根絶であったと言えます。
そのため,これらの事件を集中的に取り扱う専門部署を作り,警察等の関係機関との連絡を日頃から密にする必要があったことが,このような組織編成の理由の1つにあったと思われます。
3 そのため,当時の東京地検公安部麻薬係では,東京における麻薬犯罪に対する警察の捜査を統括する警視庁組織犯罪対策5課のほか,厚生労働省関東信越麻薬取締部,東京税関,海上保安庁との協議会を立ち上げ,定期的な勉強会や情報交換会も行っていました。
その中でも筆者が特に楽しみにしていたのは,各機関の業務に対する理解を深める目的で実施されていた見学会でした。
筆者も,その恩恵にあずかり,警視庁科学捜査研究所,関東信越麻薬取締部のラボ(薬物鑑定をするための実験室),東京税関や検疫所などの見学会に参加させていただきました。
そして,麻薬犬が見事に大麻の入ったスーツケースを嗅ぎ分ける実演に喜び,心からの拍手を送ったりしていました。
膨大な麻薬事件の処理に追われる多忙な日々の中で,この見学会は,筆者にとっての「遠足」のようなものだったなと懐かしく思います。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★