自殺はどんな罪に問われるのでしょうか?
1 日本では,自殺行為自体を罪に問う法律はありません。
2 しかし,自殺を考えた人が,刃物を持って死に場所を求めてさまよったような場合には,罪に問われる危険があります。
銃砲刀剣類所持等取締法(以下,「銃刀法」といいます。)22条は,業務その他正当な理由がなければ,刃体の長さが6センチメートルを超える刃物を携帯してはならないと規定しており,これに違反した場合,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられることになります(銃刀法31条の18第3号)。
この法律が適用される場面では,自殺目的は「正当な理由」と認めれれていませんから,自殺目的で包丁を持ち歩いていたような場合であっても,この法律が適用されて犯罪に問われる危険があります。
3 また,自殺を考えた人が,例えば,辛い心情を相談した身内に自殺の手伝いを頼んだような場合には,手伝った人の行為の内容次第で,手伝った人が罪に問われる危険があります。
例えば,自殺を考えている人から頼まれて,ホームセンターで首を吊るためのロープを買ってきて渡したような場合には,自殺幇助罪(刑法202条前段)として罪に問われる可能性があります。
また,自殺を考えている人が寝たきりであったため,その人から頼まれて首を絞めて殺してあげたような場合には,嘱託殺人罪(刑法202条後段)として罪に問われる可能性もあります。
いずれも,その法定刑は,6月以上7年以下の懲役又は禁錮とされており,それほど軽い罪とは言えません。
少なくとも逮捕されてしまうリスクは高いですし,実刑(実際に刑務所に服役させられる)判決が下されることも少なくありません。
4 最近は,コロナ渦の影響もあって,以前にも増して,自殺を考える人が少なくないように思われます。
筆者も,最近,立て続けに2件,自殺を考えて包丁を持ち歩き逮捕された方の国選弁護を担当しました。
そのうち1名の方は,前科もあったため起訴されてしまいましたが,もう1名の方については,もともと住んでいた土地の市役所社会福祉課の担当者と交渉し,生活保護受給の手続を進めてもらいつつ,そのことを担当検察官にも説明して不起訴・釈放としてもらうことができました。
自殺を考える人には,それなりの辛い事情があろうかと思いますが,筆者が,検察官時代も含めて扱ったいくつかの事例(その中には,認知症が進んだ奥様に対する嘱託殺人という,とても可哀想な案件がいくつもありました)を振り返ってみると,自殺を考える前に,もっと周りの人に相談して頼って欲しかったと思う事例が多くありました。
弁護士は,そういったこと,つまり自殺を未然に防ぐための生活の立て直しの相談にも乗れますので,そのような場合には遠慮せずに弁護士に相談していただければと思います。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★