「境界問題」に関する研修の講師をしました
千葉県土地家屋調査士会市川支部において,「弁護士が扱う境界紛争の実際」というテーマで研修を実施しました。
受講するのは,境界問題に関するプロフェッショナルである土地家屋調査士の先生方です。測量や筆界の探索作業については,調査士の先生方のほうがお詳しいので,この研修では,実際に,①筆界確定訴訟や,②所有権確認訴訟を提起した場合に法的な解決がどうなるのか実例を踏まえて話をさせていただきました。
1 筆界確定訴訟
法務局の筆界特定制度は,訴訟とは違う様々なメリットがありますが,何度か利用したユーザーの立場からすれば,思ったよりも時間がかかり(難しい事件になると1年以上かかるケースも経験しました。),結局,訴訟に移行する場合もあるので,終局的な解決を早期に図ろうと思うとやはり筆界確定訴訟の提起も選択肢となります。
もっとも,筆界だけ訴訟で確定したとしても,越境している構造物の問題や時効等の関係があれば,所有権界に関する紛争解決につながらない場合もあります。事案によっては,所有権確認訴訟等を併合提起することもあるので,そのあたりの実情をお話させていただきました。
2 所有権確認訴訟
筆界特定制度等を利用して筆界が判明しても,長期間の占有状況が筆界と一致していない場合,土地の一部の時効取得の問題が生じたりします。時効の問題に関しては,時効と登記の問題や,背信的悪意者の認定など,民法上の論点も生じ,裁判例も積み重ねられています。
また,「筆界確認書」等の書面が,所有権の範囲を確定する際に一定限度,意味をもつ場合もあるので,そのように筆界と所有権界が相互に影響することも注意する必要があります。
他方,筆界の問題と異なり,所有権界については訴訟上の和解もできます。また,守秘義務に反しない限度で,当職が関与したADR(境界問題相談センターちば)での所有権界に関する解決例なども紹介させていただきました。
境界紛争は,相談を受けた当初に信頼できる図面がないことも多く,当初は感情的な軋轢が大きい場合もあり,弁護士にとっても,難しい紛争類型であると思います。
こうした研修の機会では,境界問題のスペシャリストである調査士の先生方の知識・経験をうかがえるため,貴重な機会になりました。
平成29年1月 菅野