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刑事弁護フォーラムで「密輸事件の特徴と弁護活動の留意点」について講演しました

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 刑事弁護フォーラムの例会のテーマは,「刑事裁判における事実認定~『経験則』のあり方~」でした。私からは,「密輸事件の特徴と弁護活動の留意点」について話をさせていただきました。

 密輸事件について,裁判官や検察官から優れた論考が発表されており,研究が進んでいる分野です。良く読まれているものとして次のような論考があります。 
 〇髙嶋智光「覚醒剤密輸入(携行型)事件における故意に関する捜査とその立証」
  警学集第67巻第11号
 〇渡邉英敬/飯島英貴「覚せい剤を中心とする違法薬物の営利目的輸入事件における違法薬物の知情性の推認について」『植村退官記念論文集(第二巻)』
 〇長瀬敬昭/太田寅彦「覚せい剤密輸事件における故意の認定について」
  判タNO1422号

 密輸事件では,故意等を推認させる決定的な証拠が乏しく,裁判所や検察官は,さまざまな「経験則」を利用して故意等が推認できると主張します。
 もっとも,個々の事案を離れて,ある一部の事実だけを切り取ることの危険性も指摘されています。東高判平成28年1月13日は,次のような指摘とともに,証拠もみずに事実認定していると有罪とした一審の千葉地裁判決(千葉地裁平成27年3月24日)の事実認定の在り方について厳しく批判し,無罪判決を出しています。

「原審裁判官は,公判前整理手続で当事者の主張する事実の中から被告人の犯意を推認させると考えた要素を抽出し,これらの事実には当事者間に争いがないと整理した上,原判決において,その争いがないと整理した要素を,証拠調べの結果に基づいて認定することなく,所与の前提事実であるかのようにして,被告人の犯意を推認したものと思われる。」
「摘示した要素から『特段の事情がない限り』被告人の犯意が推認されるとすることによって,犯意がないことの立証責任を被告人側に負わせる構造に陥っている疑いもある。」

 例会では,私が司会を担当し,高野隆先生と元裁判官の門野博先生をパネラーに,パネルディスカッションをしたのですが,門野先生が,「判決等を分析等することはいいが,それをパターン化してしまうのは危険なことである。」と述べられていたのが印象的でした。

 密輸事件は,証拠が少ないからこそ,弁護人の果たすべき役割も大きいと改めて思いました。

平成28年6月 弁護士 菅野亮