季刊刑事弁護(121号)に「刑事弁護レポート」が掲載されました
2025年1月
弁護士 菅 野 亮
私が国選弁護人として担当した覚醒剤営利目的輸入罪が無罪となった事例(千葉地方裁判所令和6年5月22日判決・LEX/DB25620376)に関する刑事弁護レポートが季刊刑事弁護121号(現代人文社・2025)に掲載されました。
この事案は、覚醒剤を海外から密輸した運び役の事案ですが、弁護人が裁判員法50条に基づく鑑定請求を行い(ただし、責任能力ではなく、精神障害の有無・症状及び故意判断の前提となる心理・行動特性を鑑定事項とした鑑定請求を行いました。)、精神鑑定で得られた精神医学的知見(慢性期統合失調症の心理・行動特性等)を前提として、覚醒剤密輸の故意がないと判断された事例です。
覚醒剤密輸事件で、精神鑑定が行われることは、殺人事件や放火事件に比べると少ない
ですし、故意判断の参考とするための精神鑑定が行われることはかなり限られた事例かと思われます。
しかし、本件のように慢性期の統合失調症の被告人が密輸組織に騙されて運び役に仕立てあげられた事例では、被告人の心理・行動特性をふまえた故意判断が必要であると考えられます。
鑑定人を担当された精神科医の五十嵐禎人先生(千葉大学社会精神保健教育研究センター教授)の論考及び刑法学者の大庭沙織先生(福岡大学法科大学院准教授)の本件に関する論考もあるので、興味ある方はご覧下さい。
今回は精神障害があるケースでしたが、大庭先生の論考では、「病気や精神障害がなくても、人は合理的な(あるいは、「一般的」と言われるような)推論や判断ができるとは限らないのであるから、『この場合には通常は認識があっただろう』と直ちに推論することには判断を誤る危険があると留意しておく必要があると思われる」と指摘されています。大庭先生の指摘を常に意識して弁護活動を行うことが大切かと思われます。
以上
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★