飲酒と犯罪(その3)
2025年1月
弁護士 菅 野 亮
1 飲酒と犯罪(その3)の内容
飲酒と犯罪(その1)及び(その2)では、刑事裁判において、飲酒していた事情がどのように評価されるか、飲酒が身体にどのように影響するか、心神喪失と判断される事案について紹介してきました。
飲酒と犯罪(その3)では、飲酒して自動車を運転する犯罪についてご紹介します。
2 道路交通法違反
飲酒して自動車を運転する行為は、道路交通法に違反する行為となります。
道路交通法は、次のように定めています。
(酒気帯び運転等の禁止)
第六十五条 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
道交法65条に違反した場合の罰則は、次のとおり規定されています。
第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの
第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
三 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(自転車以外の軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの
道交法65条(酒気帯び運転等の禁止)の規定に違反し、「政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態」にあった場合は、酒気帯び運転とされ、「三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」となります(政令において、呼気1リットル中、0.15mg以上とされています。)。
道交法65条(酒気帯び運転等の禁止)の規定に違反し、酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態)で運転した場合は、上記よりも厳しく、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金となります。
3 道路交通法違反事案に関する処分の実情
飲酒運転については、悲惨な事故を教訓に、厳罰化が進み、厳しく処罰されるのが実情です。
軽微な人身事故(人身事故部分は、後述の自動車運転処罰法違反となります。)であれば、事案によっては不起訴処分もあるのですが、飲酒による人身事故の場合、怪我が軽微で被害者と示談が成立していても自動車運転処罰法違反及び道路交通法違反事件として起訴され、刑事裁判を受ける必要がある場合もあります。
4 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
交通事故により、人に怪我をさせてしまったり、死亡させてしまった場合、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律違反となります(従来は、業務上過失致死傷罪として処罰されていましたが、2007年に自動車運転過失致死傷罪が創設され、さらに2014年に自動車運転死傷行為等処罰法が制定され、危険運転致死傷罪及び自動車運転過失致死傷罪が同法で処罰されることになりました。)。
飲酒を伴わない交通事故の場合、同法5条(過失運転致死傷)の問題となります。
(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
飲酒運転で人身事故を起こしてしまった場合、先に述べた道路交通法違反と過失運転致死傷罪で処罰されることになります。
さらに、同法には、飲酒運転に関連する次の規定もあります。
第3条は、危険運転致死傷罪の一類型ですが、アルコールの影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して人を死傷させた場合の刑罰を定め、第4条は、現場から離れるなどしてアルコールの影響の有無等について分からなくする行為に関する刑罰を定めています。
過失運転致死傷罪も、7年以下の懲役と決して軽い刑罰ではありませんが、危険運転致死傷罪では、法定刑が、負傷のケースで、12年以下、死亡のケースで15年以下とかなり厳しいものとなっています。
(危険運転致死傷)
第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)
第四条 アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の懲役に処する。
以上
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★