イギリス刑事法紹介㉔~性犯罪における被害者の同意②~
イギリス法においては、強姦罪(rape)などの一定の性犯罪が成立するためには、「加害者において、被害者が同意していると、合理的に信じていなかったこと」が必要とされています(the Sexual Offences Act 2003)。
本稿では、どのような場合に、加害者が被害者の同意を「合理的に信じていなかった」と認められるかについて、説明します。
加害者の認識が合理的であったか否かは、加害者が同意を確認するために踏んだステップを含め、「すべての状況(”all the circumstances”)」を考慮して判断するものと明文で規定されています(the Sexual Offences Act 2003)。
ただし、「合理的かどうか」は客観的に判断され、一般人を基準として結論が下されることになります。そのため、加害者が統合失調症による妄想により、加害者自身の性行為が被害者に対する治療効果があると信じてしまったという裁判例では、そのような妄想に基づいて被害者の同意があると信じたとしても、「合理的に」同意があったと信じたとはいえないため、加害者の精神疾患を考慮すべきでないとの判断が示されています。
一方で、判例法上、知的能力に著しい障害を抱える加害者が、被害者の行動の社会的意味を読み取れなかったような場合には、被害者の知的能力の問題を考慮して「合理的かどうか」を判断することも許容されると考えられています。
そのため、合理的かどうかを判断すべきに当たって考慮すべき「すべての状況」の範囲がどこまでかという点は、解釈上難しい問題を残す論点といえます。
※本稿におけるイギリス法の説明は、イングランド及びウエールズ圏内において適用される法規制に関するものです。
弁護士/英国弁護士 中井淳一
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★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★