懲戒処分と退職金の制限(その1) ~令和5年6月27日第三小法廷判決~
2024年7月
弁護士 菅野亮
1 刑事事件と懲戒処分
刑事事件の依頼を受けた際、刑事事件のことだけでなく、①今後、自分は仕事を続けていけるのかという相談や、②勤務先で懲戒処分を受けた時に退職金はもらえるのかという相談を受けることがあります。
民間企業であれば、懲戒処分については、就業規則等に定められた事由に該当する場合、会社の定めた手続により懲戒処分がされることになります。
公務員であれば、法令に基づき、懲戒処分が下されますが、もっとも重い場合、懲戒免職処分となります(地方公務員の場合は、地方公務員法29条、国家公務員の場合は、国家公務員法82条に規定があります。)。
ただし、法律は、以下のとおり、公務員として「ふさわしくない非行」があった場合の懲戒処分の種類として、「免職、停職、減給又は戒告」処分を規定していますが、どのような非行行為をした場合に、どのような懲戒処分になるのか、具体的なことは定めていません。
(国家公務員法82条1項の抜粋) 第二款 懲戒 (懲戒の場合) 第八十二条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。 一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合 二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合 三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合 |
2 懲戒処分の指針(人事院が策定している基準)
人事院は、「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職-68、人事院事務総長発、最終改正:令和2年4月1日職審-131)を定め、人事院のホームページで公表しています。
刑事事件と関係しそうなものとしては、次のようなものがあり、以下で引用しています。
まず、「公金官物取扱い関係」については、横領、窃盗、詐欺は、免職と規定されており、厳しいものとなっています。
また、「公務外非行行為」も、放火、殺人等の重大事件であれば、当然、免職と定められていますが、「公金官物」に対する窃盗、詐欺事件は、免職であるのに対し、「公金官物」以外の窃盗、詐欺の場合は、「免職又は停職」と停職処分にとどまる余地がある規定になっています。
性犯罪のうち、痴漢行為及び盗撮行為については、停職又は減給という規定で、免職は定められていません。
交通事故関係では、飲酒運転については、「酒酔い運転」で、免職又は停職となり、酒酔い運転により、人を死亡させたり、傷害を負わせた場合は、免職という厳しい規定となっています。飲酒運転でないものの、交通事故で、人を死亡させたり、傷害を負わせた場合は、免職、停職、減給又は戒告と幅のある規定となっていますが、措置義務違反がある場合(救護義務、報告義務を果たさずにひき逃げしたような場合がこれに該当すると思われます。)は、免職と停職となっています。
また、「処分を行うに際しては、過失の程度や事故後の対応等も情状として考慮の上判断するものとする。」と注記されていますので、処分を軽減するためにも、事故後に誠意ある対応をとる必要があります。
地方自治体も、概ね人事院と同様の指針を定め、その指針に基づき懲戒処分を行っています。
人事院「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職-68)(人事院事務総長発)最終改正:令和2年4月1日職審-131
○ 公金官物取扱い関係 (1) 横領 公金又は官物を横領した職員は、免職とする。 (2) 窃取 公金又は官物を窃取した職員は、免職とする。 (3) 詐取 人を欺いて公金又は官物を交付させた職員は、免職とする。 (4) 紛失 公金又は官物を紛失した職員は、戒告とする。 (5) 盗難 重大な過失により公金又は官物の盗難に遭った職員は、戒告とする。 (6) 官物損壊 故意に職場において官物を損壊した職員は、減給又は戒告とする。 (7) 失火 過失により職場において官物の出火を引き起こした職員は、戒告とする。 |
○ 公務外非行関係 (1) 放火 放火をした職員は、免職とする。 (2) 殺人 人を殺した職員は、免職とする。 (3) 傷害 人の身体を傷害した職員は、停職又は減給とする。 (4) 暴行・けんか 暴行を加え、又はけんかをした職員が人を傷害するに至らなかったときは、減給又は戒告とする。 (5) 器物損壊 故意に他人の物を損壊した職員は、減給又は戒告とする。 (6) 横領 ア 自己の占有する他人の物を横領した職員は、免職又は停職とする。 イ 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した職員は、減給又は戒告とする。 (7) 窃盗・強盗 ア 他人の財物を窃取した職員は、免職又は停職とする。 イ 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した職員は、免職とする。 (8) 詐欺・恐喝 人を欺いて財物を交付させ、又は人を恐喝して財物を交付させた職員は、免職又は停職とする。 (9) 賭博 ア 賭博をした職員は、減給又は戒告とする。 イ 常習として賭博をした職員は、停職とする。 (10) 麻薬等の所持等 麻薬、大麻、あへん、覚醒剤、危険ドラッグ等の所持、使用、譲渡等をした職員は、免職とする。 (11) 酩酊による粗野な言動等 酩酊して、公共の場所や乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をした職員は、減給又は戒告とする。 (12) 淫行 18歳未満の者に対して、金品その他財産上の利益を対償として供与し、又は供与することを約束して淫行をした職員は、免職又は停職とする。 (13) 痴漢行為 公共の場所又は乗物において痴漢行為をした職員は、停職又は減給とする。 (14) 盗撮行為 公共の場所若しくは乗物において他人の通常衣服で隠されている下着若しくは身体の盗撮行為をし、又は通常衣服の全部若しくは一部を着けていない状態となる場所における他人の姿態の盗撮行為をした職員は、停職又は減給 とする。 |
○ 飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係 (1) 飲酒運転 ア 酒酔い運転をした職員は、免職又は停職とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職とする。 イ 酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職又は停職(事故後の救護を怠る等の措置義務違反をした職員は、免職)とする。 ウ 飲酒運転をした職員に対し、車両若しくは酒類を提供し、若しくは飲酒をすすめた職員又は職員の飲酒を知りながら当該職員が運転する車両に同乗した職員は、飲酒運転をした職員に対する処分量定、当該飲酒運転への関与の程度等を考慮して、免職、停職、減給又は戒告とする。 (2) 飲酒運転以外での交通事故(人身事故を伴うもの) ア 人を死亡させ、又は重篤な傷害を負わせた職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において措置義務違反をした職員は、免職又は停職とする。 イ 人に傷害を負わせた職員は、減給又は戒告とする。この場合において措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。 (3) 飲酒運転以外の交通法規違反 著しい速度超過等の悪質な交通法規違反をした職員は、停職、減給又は戒告とする。この場合において物の損壊に係る交通事故を起こして措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。 (注)処分を行うに際しては、過失の程度や事故後の対応等も情状として考慮の上判断するものとする。 |
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★