イギリス刑事法紹介⑳~傷害罪~
日本法上の傷害罪に対応する罪は、イギリス法上、3つの犯罪類型に別れます。
最も軽い類型は、Offences Against the Person Act 1861, section 47に定められた犯罪です。この類型の犯罪の成立要件を要約すると、何らかの暴行(assault)により、実際の身体への危害(actual bodily harm)を生じさせることとされています。この犯罪類型に関する量刑は、最大で5年間の拘禁刑とされています。
成立要件としては、日本法上の傷害罪に近い内容となっています。
中間の類型として、Offences Against the Person Act 1861, section 20に定められた犯罪があります。この類型では、客観的な結果として、非常に重い身体への危害(grevious bodily harm)を被害者に加えたことが要件となります。一方で、主観面としては、何らかの身体的危害を加えることに関する故意等で足り、非常に重い身体への危害を加えることに関する故意等までは求められていません。
この犯罪類型に関する量刑も、最大で5年間の拘禁刑とされていますが、実際は、最も軽い類型と比較して重い刑が言い渡されることが多いようです
最も重い類型の犯罪は、Offences Against the Person Act 1861, section 18に定められています。この犯罪の成立要件を簡単にまとめると、主観的に、非常に重い身体への危害(grevious bodily harm)を加える意図を持って、結果としてそのように非常に重い危害を加えることとなります。主観的な要件についても、非常に重い身体への危害を加えることに関する点まで求められている点が、2つ目の類型とは異なります。
この犯罪類型に関する量刑は、最大で終身刑とされており、非常に重い刑が科されることが法律上あり得ます。
日本における傷害罪は、イギリス法上の上記3つの類型をすべて含むと考えられます。そのように広い犯罪類型をカバーするということもあり、日本法上の傷害罪に対する法定刑は、罰金50万円から15年以下の拘禁刑と、非常に広い範囲で定められています。
しかし、あまりに広い法定刑は、刑罰の範囲の予測可能性が低くなる点や、被害結果や事件内容に比して過度に重い刑罰が科される可能性が残る点など、問題もあり得るところです。
犯罪類型をより厳密に立法で定めることには、こうした問題点を避ける上ではメリットもあると考えられます。
※本稿におけるイギリス法の説明は、イングランド及びウエールズ圏内において適用される法規制に関するものです。
弁護士/英国弁護士 中 井 淳 一
https://japanese-lawyer.com/
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★