不起訴処分結果の不用意な開示が違法とされた裁判例を紹介します
2024年7月
弁護士 金子達也
1 2024年5月30日、名古屋高等裁判所は、暴行罪で不起訴処分(起訴猶予)を受けたことを理由に勤務先(県教育委員会)から処分を受けた元被疑者(Aさん)が、国を訴えた裁判で、「検察官が、Aさんの承諾なく、起訴猶予という不起訴理由を県教育委員会に伝えたのは違法である」旨の判断をし、国に5万円の賠償を命じました。
2 人の刑事事件に関する情報は重大なプライバシーに関わる事項ですから、それを取り扱う検察官や警察組織には、この情報を厳格に管理し、安易に第三者に漏らしてはいけないことが求められています。
当然ながら、Aさんが暴行罪で不起訴処分(起訴猶予)を受けたという事実も、Aさんの重大なプライバシーに関わる事項として、厳格に管理されるべきでした。
Aさん自身は、刑事訴訟法259条により、検察官に請求して不起訴処分の告知を受ける権利(知る権利)があります。
しかし、Aさんに関するこのような情報を、勤務先(県教育委員会)が知り得る明確な制度はありませんから、これを検察官がAさんの承諾もなく県教育委員会に通知してしまったことは、重大なミスと言うべきです。
ですから、これを違法と断じて国に賠償を命じた名古屋高等裁判所の判断は、(賠償額の多寡はさておき)極めて常識的な結論を示したものと評価できます。
3 刑事弁護人をやっていると、検察官や警察組織、殊に警察組織において、この情報が非常に軽く取り扱われていると感じることが、良くあります。
例えば、事案解明のために全く必要ないと思われるような案件で、警察官が捜査対象者の勤務先や近隣関係者に不用意に接触し、その罪状などを伝えた上で聞き込み捜査をするような場面が多々あります。
そのことにより、会社や近隣者に自分の罪状を知られてしまい肩身の狭い思いをしている依頼人の姿を見ていると、意地悪な警察官が職権を濫用して「嫌がらせ」でもしているのではないかと感じてしまいます。
Aさんの場合も、検察官が不用意に、「起訴猶予(被疑者が犯罪行為に及んだ事実は認められるが諸事情を考慮して起訴しないという意味)」という不起訴理由を県教育委員会に伝えてしまったことにより、刑事裁判で有罪とされたわけではないのに犯罪者であるかのように扱われて処分を受けるという、大きな不利益を被ってしまいました。
担当検察官には、このような事態を招いたことを、真摯に反省して欲しいと思います。
また、他の検察官や警察組織には、この判決を真摯に受け止め、人の刑事事件に関する情報を厳格に管理し、正しいルールに従い取り扱うよう、今一度、襟を正していただきたいと思います。
以上
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★