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Q 被害届と告訴(状)の違いを教えてください

よくあるご質問刑事事件

 被害届や告訴(状)は、いずれも、被害者等の私人が犯罪被害を捜査機関に申告する行為、あるいはその際に作成される書類を意味する言葉です。
  警察等の捜査機関が、被害届や告訴(状)の提出を受けて犯罪捜査に動き出すことがあるという意味で、被害届や告訴(状)は、捜査の端緒(捜査のきっかけ)の一つともいえます。
  被害届については、犯罪捜査規範(国家公安委員会が定めた規則)が「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があったときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。(61条1項)」と規定した上、「前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届に記入を求め又は警察官が代書するものとする。(61条2項)」と規定しています。つまり、被害届というのは、被害の申告が行われた場合に、警察官の求めに応じて申告者が記入した書面、又は、警察官が代書した書面を指す言葉です。
  一方、告訴は、あらかじめ作成した告訴状という書面を捜査機関に提出して行うのが通常ですが、法的には、口頭による告訴も有効です(刑訴法241条1項)。なお、口頭による告訴が受理された場合、受理した捜査官は調書を作成しなければならにないとされています(刑訴法241条2項)。

 

 弁護士は、法律専門家として、犯罪被害者やその家族の依頼を受け、警察等の捜査機関への被害の申告に同行したり、代理人として告訴状を作成・提出するなど、被害届や告訴(状)にまつわる業務を引き受けることがあります。
  この場合に、どのようなことを行うのかについては、次稿「被害届や告訴を受理してもらうためのコツはありますか」で紹介します。

 

 被害届と告訴(状)の違いについて、一般に言われているのは、それを行うことができる主体の違いです。
  被害届は、その主体に関する法律上・規則上の規定はなく、一般には、文字通り被害者が行うものと理解されています(とはいえ、例えばスーパーにおける万引被害の場合、本来の被害者であるスーパーの運営会社ではなく、店長等の店の責任者が被害届を提出し、警察が受理することが実務上良く行われているので、被害届の主体は被害者であると言い切ってしまうのは正確ではありません。)。
  これに対し、告訴の場合は、刑訴法により、被害者(刑訴法230条)だけでなく、被害者の法定代理人(刑訴法231条1項)、被害者が死亡した場合の配偶者等(刑訴法231条2項)、被害者の法定代理人が被疑者等である場合の被害者の親族(刑訴法232条)、死者の名誉が毀損された場合等の死者の親族又は子孫(刑訴法233条)、親告罪につき告訴できる者がいない場合の検察官が指定した者(刑訴法234条)にも、独立した告訴権が付与されています。
  このように、刑訴法が、告訴権者について細かく規定しているのは、親告罪という告訴がなければ起訴できない犯罪類型があるからです。
  かつては強姦罪(現在の不同意性交等罪)などの性犯罪も親告罪とされていましたが、現在は親告罪の類型から外されました。そのため、現在でも親告罪とされている代表的な犯罪類型は、名誉毀損罪(刑法230条、232条)や器物損壊罪(刑法261条、264条)になります。
  捜査実務において、このような親告罪の捜査を進めていたところ、告訴状の作成者が告訴権者とは言えなかったことが判明し、被疑者を起訴できなくなるような事態も散見されるので(会社などの法人が被害者の場合に、告訴状の作成者に告訴する権限があるかに疑義が生じる場合が典型例です。筆者も検察官時代にそのような経験をして慌てて告訴状を出し直してもらったことがあります。)、警察官や検察官などの捜査官が親告罪の捜査に当たる場合には、この点に細心の注意を払う必要があります。
  同じように、弁護士が、名誉毀損罪や器物損壊罪で告訴したい旨の相談を受けた場合は、被害者が誰なのかをきちんと特定した上、相談者が告訴権者に含まれているのかを注意深く見極める必要があるのです。

 

 被害届と告訴(状)の違いとして、ほかに、告訴を受理した警察官には検事への送付義務があり(刑訴法242条)、告訴事件を不起訴処分にした検察官には告訴人に結果を通知する義務がある(刑訴法260条)が、被害届には、そのような義務が規定されていないことがあげられます。
  とはいえ、被害届も、それを受理した以上は警察が勝手にもみ消すことは考え難いと言えます(受理した被害届は受理簿に登載しなければなりません。犯罪捜査規範62条)。また、被害届の有無にかかわらず、警察が捜査した事件は、微罪処分にできる(犯罪捜査規範198条)等の特別の規定がなければ、全件、検察官に送致することが義務付けられています(刑訴法246条)。ですから、告訴の送付義務との違いはほとんど無いと言っていいでしょう。
  他方で、告訴事件を不起訴処分にした検察官に通知義務がある(つまり、告訴事件の場合、不起訴とされた場合には必ず通知を受け取ることができる。)のに対し、被害届の場合に通知義務がないことは、大きな違いと言わざるを得ません。
  つまり、被害届の場合、意に反して不起訴処分とされても、その通知が当然には行われないため、自ら又は依頼した弁護士を通して、処分結果が出たかどうかを検察官に小まめに問い合わせる必要があり、そのぶん、煩わしいことになろうかと思います。
  ですから、弁護士を依頼して被害届を行った場合には、このような問い合わせを定期的に行い、捜査機関の動きに目を光らせることが、弁護士の重要な業務と位置付けられることになるのです。
  検察官の不起訴処分に対しては、検察審査会に審査を求めることができますので、検察官の通知義務は、この審査を求める被害者等の権利を的確かつ迅速に行使するためにも欠かせない、重要な制度といえます。

2024年4月     

弁護士 金 子 達 也 

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★