「被疑者の社会内処遇に関する改正更生保護法の施行」
2024年4月
弁護士 虫本良和
2022年(令和4年)6月13日に成立した「刑法等の一部を改正する法律」によって新設された被疑者の社会内処遇に関する制度が、2023年(令和5年)12月1日から、新たに施行されました。今回施行された制度は、主に更生保護法の改正によって実施されるものとなります。
改正された更生保護法の条文のうち、新たな制度に関わる部分は以下のとおりです。
(勾留中の被疑者に対する生活環境の調整) 第八十三条の二 保護観察所の長は、勾留されている被疑者であって検察官が罪を犯したと認めたものについて、身体の拘束を解かれた場合の社会復帰を円滑にするため必要があると認めるときは、その者の同意を得て、第八十二条第一項に規定する方法により、釈放後の住居、就業先その他の生活環境の調整を行うことができる。 2 保護観察所の長は、前項の規定による調整を行うに当たっては、同項の被疑者の刑事上の手続に関与している検察官の意見を聴かなければならない。 3 保護観察所の長は、前項に規定する検察官が捜査に支障を生ずるおそれがあり相当でない旨の意見を述べたときは、第一項の規定による調整を行うことができない。 |
本制度は、保護観察所の長が、勾留中の被疑者について、更生のために必要があると認める場合に、「釈放後の住居、就業先その他の生活環境の調整を行うことができる」とするものです。
この改正によって、刑事処分が決まる前の段階から、保護観察所が被疑者の更生に向けた生活環境の調整などに関与しやすくなるという効果が期待されています。
ただし、この制度を利用する条件として、当該被疑者について、検察官が「罪を犯したと認めたもの」であることが必要であると定められています(1項)。また、保護観察所が、生活環境の調整を行うためには「検察官の意見」を聴かなければならず(2項)、検察官が「不相当」の意見を述べた場合には開始できないとされており(3項)、この制度を実施するか否かについて、被疑者の訴追権限を有する検察官が、事実上大きな影響を与えることが可能となっています。
本制度については、検察官が制度の本来の目的に反して、例えば、被疑事実と無関係の余罪に関する供述を事実上強制する手段にする等の不当な用いられ方がなされないよう注意が必要です。弁護人としても、本制度について被疑者に適切に内容を説明し、真の意味で同意がある場合に、本制度が有効に活用されるよう留意する必要がありそうです。
(更生緊急保護) 第八十五条 この節において「更生緊急保護」とは、次に掲げる者が、刑事上の手続又は保護処分による身体の拘束を解かれた後、親族からの援助を受けることができず、若しくは公共の衛生福祉に関する機関その他の機関から医療、宿泊、職業その他の保護を受けることができない場合又はこれらの援助若しくは保護のみによっては改善更生することができないと認められる場合に、緊急に、その者に対し、金品を給与し、又は貸与し、宿泊場所を供与し、宿泊場所への帰住、医療、療養、就職又は教養訓練を助け、職業を補導し、社会生活に適応させるために必要な生活指導を行い、生活環境の改善又は調整を図ること等により、その者が進んで法律を守る善良な社会の一員となることを援護し、その速やかな改善更生を保護することをいう。 (略) 六 検察官が直ちに訴追を必要としないと認めた者 (略) |
本条文の改正により、検察官が、起訴或いは不起訴のいずれの処分にするかを決定する前に、いったん「処分保留」で釈放となった被疑者についても、更生緊急保護の制度が利用できることになりました。
更正緊急保護とは、刑事手続きで身体拘束を受けていた人が釈放された場合に、帰住先までの交通費の支援、宿泊場所や就業先の確保などの支援を受けられる制度です。
この制度を活用することによって、例えば、住居や仕事がなく生活に困窮していたことが原因で事件を起こしてしまった人について、処分保留のままいったん釈放されることで、社会内での生活環境を改善したり、被害弁償を実施したりする機会を得ることができ、結果的に不起訴処分に繋がることが期待されます。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★