イギリス刑事法紹介⑱~(非自発的)故殺罪~
イギリス法の故殺罪(manslaughter)には、「自発的故殺罪」(voluntary manslaughter)の他に、「非自発的故殺罪」(involuntary manslaughter)という類型が存在します。
非自発的故殺罪に分類されるのは、以下の2つの犯罪です。
1つは、「違法かつ危険な行為による故殺」(manslaughter by an unlawful and dangerous act)です。この犯罪は、コモンロー(判例法)により認められている犯罪で、その罪名が示すとおり、殺意が認められない場合でも、違法かつ危険な行為に及び、それによって人を死亡させた場合に成立します。ここでいう「危険な行為」とは、判例上、合理的人間であれば危害を加えるリスクを認識できる程度で足りるとされています。
この類型の故殺罪は、日本法の傷害致死罪に近いといえます。
もう1つは、「重過失故殺」(gross negligence manslaughter)です。こちらも罪名が示すとおり、重過失により人を死亡させた場合に成立する犯罪です。「重過失」に当たるか判断は、基本的に客観的に行われるものとされており、被告人の行為が合理的人間の基準を下回るか否かが判断対象となります。
こちらの類型の故殺罪は、日本法でいえば重過失致死罪に近い犯罪です。そのため、故意が求められる犯罪ではなく、この点から考えても「故殺」という訳語にはミスリーディングな部分があるのかもしれません。
※本稿におけるイギリス法の説明は、イングランド及びウエールズ圏内において適用される法規制に関するものです。
弁護士/英国弁護士 中井淳一
https://japanese-lawyer.com/
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★