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イギリス刑事法紹介⑯~殺人罪~

2024.03.05ブログ

 

 イギリスにおける殺人罪は、成文法では要件が定められておらず、コモンロー(判例法)により規定されています。また、殺人罪が成立した場合の刑罰は、常に終身刑となっています。
 殺人罪の客観的な要件(actus reus)は、人を死亡させることですが、しばしば問題になるのは行為と死亡の間の因果関係の有無です。イギリス法上、因果関係には、事実的因果関係(factual causation)と法的因果関係(legal causation)があるとされており、日本における相当因果関係の考え方と近い部分があります。
 また、イギリス法における殺人罪の主観的要件(mens rea)は、「殺害の故意」または「非常に重い危害を加える故意」とされています。ここでいう「故意」には、殺害等の結果を積極的に意図した直接的故意(direct intention)だけでなく、結果発生を予見した場合に認められ得る間接的故意(indirect intention)も含まれます。ただし、間接的故意が認められるためには、少なくとも、死亡という結果発生が「事実上確実」(virtually certain)と認識したことが求められます。
 殺人罪の未必の故意については、日本法上も、実務的に争われることの多い論点の一つです。日本法でも未必の故意の認定には結果発生の予見が求められていると解されますが、その確実性の程度には限定がなく、非常に薄い認識であるにもかかわらず未必の故意が認められてしまう事例もあります。イギリス法において、結果発生の予見について、「事実上の確実性」(virtual certainty)を求めているのは、間接的故意の範囲が徒に広がることを防ぐ役割があると考えられます。

 

※本稿におけるイギリス法の説明は、イングランド及びウエールズ圏内において適用される法規制に関するものです。

弁護士/英国弁護士 中井淳一
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★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★