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ポストにチラシを投函したら住居侵入罪になるのか(その2) ~最高裁の判断からみた住居侵入罪の限界~

2024.01.30ブログ

弁護士 菅 野  亮

ポストにチラシを投函したら住居侵入罪になるのか(その1)

 

3 公務員宿舎の玄関ドア前の新聞受けに政治的意見を記載したビラを投函する目的で立ち入る行為について邸宅侵入罪を認めた最高裁判決(最高裁平成20年2月11日判決)

 この事案では、公務員宿舎の玄関前の新聞受けに政治的意見を記載したビラを投函する目的で公務員宿舎の敷地に入った行為について、①邸宅に侵入したといえるか、②刑法130条(住居侵入罪)で罰する行為が憲法21条1項に反しないかが問題となりました。

 最高裁は、まず、公務員宿舎の敷地内に立ち入る行為については、次のように判示して、邸宅の侵入に該当すると判断しました。

「管理者が管理する,職員及びその家族が居住する公務員宿舎である集合住宅の1階出入口から各室玄関前までの部分及び同宿舎の各号棟の建物に接してその周辺に存在し,かつ,管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより,これが各号棟の建物の付属地として建物利用のために供されるものであることを明示しているその敷地は,刑法130条にいう『人の看守する邸宅』及びその囲にょう地として,邸宅侵入罪の客体になる。」

 また、政治的意見を記載したビラを投函する目的で行われた行為を刑法130条に違反したと処罰することについて、以下のとおり、憲法21条1項に反しないとしています。

「各室玄関ドアの新聞受けに政治的意見を記載したビラを投かんする目的で,職員及びその家族が居住する公務員宿舎である集合住宅の共用部分及び敷地に,同宿舎の管理権者の意思に反して立ち入った行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反しない。」

 この最高裁判断を前提にした場合、住居、邸宅、建造物及びその囲繞地にチラシやビラの投函目的で立ち入った場合でも、住居等に侵入したことになり、管理権者の意思に反していると判断されれば、刑法130条で処罰されうることになります。

 もっとも、一般的には、そのようなケースが立件されることは希であり、上記の最高裁の事案では、「管理者からその都度被害届が提出されていること」などの事情もあったようです。

 

4 最高裁の判断で、分譲マンションの各住戸にビラ等を投かんする目的で、同マンションの共用部分に立ち入った行為につき、刑法130条前段の罪が成立するとされた事例(最高裁平成21年11月30日)

 この事案では、最高裁は、「分譲マンションの各住戸のドアポストにビラ等を投かんする目的で,同マンションの集合ポストと掲示板が設置された玄関ホールの奥にあるドアを開けるなどして7階から3階までの廊下等の共用部分に立ち入った行為は,同マンションの構造及び管理状況,そのような目的での立入りを禁じたはり紙が玄関ホールの掲示板にちょう付されていた状況などの本件事実関係の下では,同マンションの管理組合の意思に反するものであり,刑法130条前段の罪が成立する」と判断しています(この最高裁判決は、侵入した対象が「住居」「邸宅」「建造物」なのかは明示していません。)。

 管理組合の意思については、「本件マンションの管理組合規約は,本件マンションの共用部分の保安等の業務を管理組合の業務とし,本件管理組合の理事会が同組合の業務を担当すると規定していたところ,同理事会は,チラシ,ビラ,パンフレット類の配布のための立入りに関し,葛飾区の公報に限って集合ポストへの投かんを認める一方,その余については集合ポストへの投かんを含めて禁止する旨決定していた」という事情があったようです。

 第1審では、「正当な理由がないとまでは言えない」として無罪の判断が下された事件であり(東京地裁平成18年8月28日)、最高裁の判断についても、評価は、別れるとこだと思います。

以上

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より