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ポストにチラシを投函したら住居侵入罪になるのか(その1) ~最高裁の判断からみた住居侵入罪の限界~

2024.01.23ブログ

弁護士 菅 野  亮

1 ポストにチラシを投函したら住居侵入罪にあたるのか?

ポストにチラシを投函する行為は、犯罪に問われるのでしょうか。
ここで検討するのは、住居侵入罪(刑法130条)です。

 

2 住居侵入罪が成立する場所(住居、邸宅、建造物とその囲繞地、艦船)

刑法130条は、正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する、と規定しています。

侵入してはならないのは、①人の住居、②人の看守する邸宅、③人の看守する建造物、④人の看守する艦船となります。

「住居」とは、人の日常生活に使用される場所です。日常生活に使用されていれば、トレーラーハウスやテントなど比較的簡易な物であっても「住居」にあたり得るとされています。

「住居」は、建物だけでなく、「囲繞地」(建物に付随する庭などのように塀で囲まれた場所のこと。)も含むとされていますので、塀を乗り越えて庭に入る場合にも住居侵入罪が成立します。「住居」ではなく「建造物」の事例ですが、警察署の中庭をのぞき見しようとして、警察署の塀(高さ約2.4m、幅約22㎝)の上部に上がった行為について、建造物侵入罪が成立したと判断した最高裁の判断があり(最高裁平成21年7月13日)、通常、囲繞地と道路等の境目に存在する塀にあがる行為も、刑法130条によって処罰されうることになります。

「邸宅」とは、住居用に作られたが、日常生活に利用されていない別荘等のことをいいます。

「建造物」とは、住居・邸宅以外の建物をいい、官公庁の庁舎、校舎、事務所、工場、駅舎、神社、寺院等をいいます。

「艦船」とは、軍艦及び船舶をいいます。

ポストが道路に面する塀などに設置され、「住居」や「囲繞地」に侵入することなく、道路からチラシを投函することができる場合、住宅等に侵入したといえませんので、住居侵入罪が問題になることはありません。

他方、住宅の庭に入らないとポストに投函できない場合や共同住宅の共有スペースに入らないとポストに投函できない場合、住居に侵入していることにはなりますので、当該行為が住居侵入罪に該当しないか問題となります。

もちろん、住居に住んでいる人が、あるいは当該建物を管理している管理組合等がポストにチラシ等を投函する目的で庭等に立ち入ることを同意している場合には、「正当な理由がないのに」、「侵入し」たことになりませんので、住居侵入罪は問題になりません。

では、ポストにチラシを投函することについて、管理者等の許可を得ていない場合、刑法130条の犯罪が成立してしまうのでしょうか。この点は、最高裁の判断があるので、その2で、紹介します。

(「ポストにチラシを投函したら住居侵入罪になるのか」その2に続く)

以上 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★