変わる保釈実務(罰則の新設関係)
弁護士 菅 野 亮
1 保釈に関する法改正
2023年5月10日、刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し、同月17日に公布されました。
改正された法律は、順次、施行されていますが、今回は、公布後、6ヶ月以内に施行されることとされ、すでに2023年11月に施行された、罰則の新設関係の改正内容をご紹介します。
2 公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設
これまで保釈中の被告人が公判期日に出頭しなくても、それ自体は犯罪ではありませんでした(ただし、保釈が取り消され、保釈保証金が没取されることはありました。)。
今回の法改正で、公判期日への出頭等を確保するための罰則が新設されました。
法定刑は、いずれも2年以下の拘禁刑とされています。
① 勾留の執行停止の期間満了後の被告人の不出頭罪(刑訴法95条の2)
② 保釈等をされた被告人の制限住居離脱罪(刑訴法95条の3)
③ 保釈等の取消し後における検察官の出頭命令・呼出しに違反する罪(刑訴法98条の3)
④ 保釈・勾留執行停止をされた被告人の公判期日への不出頭罪(刑訴法278条の2)
⑤ 刑の執行のための呼出しを受けた者の不出頭罪(刑訴法484条の2)
3 各罰則の内容
① 勾留の執行停止の期間満了後の被告人の不出頭罪
第九十五条の二 期間を指定されて勾留の執行停止をされた被告人が、正当な理由がなく、当該期間の終期として指定された日時に、出頭すべき場所として指定された場所に出頭しないときは、二年以下の拘禁刑に処する。
勾留の執行停止は、勾留中の被告人が、病気の治療や冠婚葬祭を理由として、一時的に勾留の執行を停止する制度です。今までは、その期間を超えて出頭すべき場所(警察、拘置所等)に戻らない場合でも、罰則はありませんでしたが、上記のとおり、罰則が整備されることになりました。
② 保釈等をされた被告人の制限住居離脱罪
第九十五条の三 裁判所の許可を受けないで指定された期間を超えて制限された住居を離れてはならない旨の条件を付されて保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が、当該条件に係る住居を離れ、当該許可を受けないで、正当な理由がなく、当該期間を超えて当該住居に帰着しないときは、二年以下の拘禁刑に処する。
2 前項の被告人が、裁判所の許可を受けて同項の住居を離れ、正当な理由がなく、当該住居を離れることができる期間として指定された期間を超えて当該住居に帰着しないときも、同項と同様とする。
保釈が許可される場合、「制限住居」といって、保釈中の生活場所が指定されます。
これまで、制限住居から離れて生活等することについて罰則はありませんでしたが、今回の法改正により、「指定された期間を超えて制限された住居を離れてはならない旨の条件」が付された場合、それに違反した場合、罰則の対象となります。
「期間を超えて」離れることが罰則の対象となり、数日間単位で期間が設定されると思われますので、制限住居から毎日仕事等で外に出かけ、その日の夜に戻ってくるようなケースは処罰の対象とはなりません。
③ 保釈等の取消し後における検察官の出頭命令・呼出しに違反する罪
第九十八条の三 保釈又は勾留の執行停止を取り消され、検察官から出頭を命ぜられた被告人が、正当な理由がなく、指定された日時及び場所に出頭しないときは、二年以下の拘禁刑に処する。
保釈や勾留の執行停止が取り消された場合、検察官からの出頭命令を無視しても、罰則はありませんでしたが、今回の改正により、正当な理由がなく、検察官の出頭命令を受けたのに出頭しない行為が、罰則の対象となりました。
④ 保釈・勾留執行停止をされた被告人の公判期日への不出頭罪
第二百七十八条の二 保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が、召喚を受け正当な理由がなく公判期日に出頭しないときは、二年以下の拘禁刑に処する。
保釈や勾留の執行停止をされた被告人が、公判期日に出頭しない場合でも、これまでは罰則はありませんでした。今回の改正により、そのような行為が罰則の対象となります。
もちろん、被告人が病気や怪我等の事情で、出頭が困難な場合などもあります。その場合は、正当な理由があることになりますので、裁判所に出頭が困難な事情を説明して、罰則の対象にならないように調整をしておく必要があります。
⑤ 刑の執行のための呼出しを受けた者の不出頭罪
第四百八十四条 死刑、懲役、禁錮又は拘留の言渡しを受けた者が拘禁されていないときは、検察官は、執行のため、出頭すべき日時及び場所を指定してこれを呼び出さなければならない。呼出しに応じないときは、収容状を発しなければならない。
第四百八十四条の二 前条前段の規定による呼出しを受けた者が、正当な理由がなく、指定された日時及び場所に出頭しないときは、二年以下の拘禁刑に処する。
これまで、刑の執行のための呼び出しを受け、それを無視して出頭しない行為について罰則はありませんでしたが、今回の法改正で、刑の執行のための呼出しを受けた者が、正当な理由なく出頭しない行為についても、罰則の対象となりました。
保釈については、正当な理由もないのに公判期日に出頭しない行為等は、これまでどおり、保釈の取消しや保釈保証金の没取につながりますし、今回の改正により、罰則の対象ともなりますので、弁護人としても、依頼者に保釈条件及び罰則について、よく説明をしておく必要があります。
以上
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★