実刑判決宣告後の保釈に関する法改正
2023年9月
弁護士 菅 野 亮
1 2023年の保釈に関する法改正
2023(令和5)年5月17日、刑事訴訟法等の一部を改正する法律(法律第28号)が公布され、保釈に関する法改正が順次施行されています。ここでは、保釈に関する法改正のうち、いわゆる実刑判決宣告後の保釈に関する改正内容を説明します。
2 実刑判決宣告後の保釈に関する法改正
(1)裁量保釈要件の明確化
刑事訴訟法90条は、保釈判断の際の考慮要素を次のとおり定めています。
「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」
これまでの保釈実務においては、第1審判決が実刑だった場合でも、基本的には、法90条の各事由を考慮して裁量保釈の判断がなされていました。
令和5年改正法では、法344条第2項に次の規定が新設されました。
「拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第九十条の規定による保釈を許すには、同条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならない。ただし、保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときは、この限りでない。」
この条文を見ると、実刑判決後の保釈は「不利益の程度が著しく高い場合」でないと許可されないなどと定めていることから、保釈要件を厳格化したようにみえるものです。
しかし、この規定は、これまでの保釈実務を厳格化したり、変更したりする意図で改正されたものではなく、あくまで実刑判決後の保釈条件の要件を明確化したものにすぎません(実務において、検察官が、法改正により、実刑判決後の保釈は厳格化された、などと主張することがありますが、誤りです。)。
実際、私が参加していた法制審議会(刑事法・逃亡防止部会・第14回)においても、次のような質疑がなされ、法務省の幹事から、立法趣旨について、以下の回答がなされています。
【法制審議会・逃亡防止部会、第14回・議事録】
菅野委員「法の要件を明確にすることであり、立法によって裁量保釈が認められる場合を限定しようとするものでないと理解してよろしいでしょうか。」
鷦鷯幹事「飽くまで禁錮以上の実刑判決宣告後の裁量保釈の判断の在り方を条文上明確にするものでありまして、現行法の下で認められる裁量保釈の範囲を殊更に限定しようとするではないものと考えております。」
(2)判決宣告期日への被告人の出頭義務
被告人には、原則として、控訴審への出頭義務はなく(法390条)、保釈中の被告人が、判決宣告期日に出頭しないこともありました。
今回の法改正では、保釈された被告人に関し、判決宣告期日に出頭義務が課されることになりました。
改正後は、「控訴裁判所は、拘禁刑以上の刑に当たる罪で起訴されている被告人であって、保釈等をされているものについては、判決を宣告する公判期日への出頭を命じなければならない」とされ、「ただし、重い疾病又は傷害その他やむを得ない事由により被告人が当該公判期日に出頭することが困難であると認めるときは、この限りでない」とされます。
「重い疾病」等が「やむを得ない事由」にあたるのは法文上明らかですが、その他のどのような事情がある場合に、判決宣告期日に出頭が義務付けられない「やむを得ない事由」に該当するかについては、今後の判断の積み重ねが待たれるところです。
以上
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★