イギリス刑事法紹介⑧~被告人の悪性格立証~
イギリスの伝統的な判例法では、事実認定を行う陪審裁判の中で、被告人の前科等による悪性格立証を検察が行うことができる場面は非常に限られており、前科の内容が問われている犯罪事実と「目立って類似している(strikingly similar)」場合等に限定されていました。
ただし、Criminal Justice Act 2003の立法により、判例法に修正が加えられ、現在では被告人の悪性格立証が認められる7つの場合が制定法により限定列挙されています。
① 両当事者が同意した場合
② 証拠が被告人自身から提出された場合
③ 重要な「説明的証拠」である場合(その証拠なしには事案を適切に理解できない場合)
④ 被告人と検察の間の争点に関わる重要な事項に関係がある場合(起訴された犯罪と同種の犯罪を犯す傾向がある場合等。※犯罪の種類、前刑からの期間や前科の回数等により総合的に判断される。)
⑤ 共同被告人間の争点に関わる重要な事項に関係して実質的な証拠価値がある場合
⑥ 被告人が与えた誤った印象を訂正するための証拠である場合
⑦ 被告人が別の人物の性格に関する攻撃を行った場合
このように、法改正によりイギリス刑事法において被告人の前科等が検察の立証に用いられ得る場面は拡大しました。
ただし、上記の限定列挙された場合に当たらなければ、被告人の前科等に関する証拠は事実認定の場面には一切表れないことになります(有罪判決後の量刑判断の場面では考慮されます。)。
その背景には、被告人の前科が立証されることで、事実認定者に対して有罪方向のバイアスを与えることになってしまうことの懸念があると考えられます。
一般市民であるか法曹であるかを問わず、人間が行う判断は種々のバイアスに対して非常に脆弱です。前科のようなインパクトの強い情報については、事実認定者に不当なバイアスを与えないよう、訴訟手続上の慎重な配慮が求められるといえます。
※本稿におけるイギリス法の説明は、イングランド及びウエールズ圏内において適用される法規制に関するものです。
弁護士/英国弁護士 中井淳一
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★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★