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受刑者の作業報奨金の支給を受ける権利を差し押さえることができるか (最高裁令和4年8月16日第三小法廷決定)

2022.10.31ブログ

令和4年10月   
弁護士 菅 野  亮

1 刑事裁判で実刑判決が確定した場合、刑務所に行くことになります。そして、刑務所で定められた作業をを行った受刑者に対して、国から作業報奨金が支給されることになっています(刑事収容施設法及び被収容者等の処遇に関する法律98条)。

2 作業報奨金は、受刑者が釈放される際に支給されます。ただし、受刑者が釈放前に作業報奨金の支給を受けたい旨の申出をした場合において、その使用の目的が、自弁物品等の購入、親族の生計の援助、被害者に対する損害賠償への充当等の相当なものであると認められる時は、釈放前であっても、支給することができます。

3 法務省によれば、作業報奨金の1人一月当たりの平均支給計算額は、約4516円とされています(令和3年度)。この金額だと年間で5万4192円と決して多い金額ではありませんが、長期間、刑務所で作業をした場合、それなりの金額になる場合があります。

4 作業報奨金が強制執行の対象となるか争いがありましたが、最高裁令和4年8月16日第三小法廷決定(以下「最高裁令和4年決定」といいます。)は、次のように述べて、作業報奨金の支給を受ける権利に対する強制執行はできないと判断しました。

「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条は、作業を行った受刑者に対する作業報奨金の支給について定めている。同条は、作業を奨励して受刑者の勤労意欲を高めるとともに受刑者の釈放後の当座の生活費等に充てる資金を確保すること等を通じて、受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰に資することを目的とするものであると解されるところ、作業を行った受刑者以外の者が作業報奨金を受領したのでは、上記の目的を達することができないことは明らかである。そうすると、同条の定める作業報奨金の支給を受ける権利は、その性質上、他に譲渡することが許されず、強制執行の対象にもならないと解するのが相当である。」

 最高裁令和4年決定は、作業報奨金を支給する法律の趣旨から、作業報奨金の支給を受ける権利を差押禁止財産であると判断しました。
 最高裁令和4年決定は、「このことは、受刑者の犯した罪の被害者が強制執行を申し立てた場合であっても異なるものではない」と述べ、申立債権者の属性に関わらず、差押禁止財産であるとしています。
 受刑者に対する債権者は、作業報奨金の支給を受ける権利に対する強制執行以外の方法で債権回収をはかることを検討することになります。

以上

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★