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医師の法的責任とリスク③ ~医師免許の取消等~

2022.11.08ブログ

令和4年10月
弁護士 金子達也

1 医師法2条は「医師になろうとする者は、医師国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない」と定めています。

2 医師国家試験合格の有無に関わらず、医師になれない欠格事由があります。

 ⑴ 医師法3条は「未成年者には、免許を与えない」と定めており、これは医師の絶対的欠格事由と言われています。
   なお、令和4年4月1日に施行された改正民法により、ここでいう「未成年者」は18歳未満の者になりました。

 ⑵ 医師法4条は、次の①~④に該当する者に、「免許を与えないことがある」と定めており、これは医師の相対的欠格事由と言われています。

  ① 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
  ② 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
  ③ 罰金以上の刑に処せられた者
  ④ 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者

 ⑶ ①の「厚生労働省令で定めるもの」について、従来は「視覚、聴覚、音声機能若しくは言語機能又は精神の機能の障害により医師の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」とだけ定められていました(医師法施行規則1条)。しかし、その後の規則改正により、現在は、「当該者に免許を与えるかどうかを決定するときは、当該者が現に利用している障害を補う手段又は当該者が現に受けている治療等により障害が補われ、又は障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない」との規定が付加され(医師法施行規則1条の2)、視覚等障害者の実情等に対する十分な配慮が求められています。

 ⑷ ③の罰金以上の刑に「処せられた者」についての考え方は、概ね次のとおりです。
   罰金刑や懲役・禁錮刑の実刑判決を受けた者は、その時点で、刑に「処せられた者」に当たります。
   刑の執行が一定期間猶予される執行猶予判決を受けた場合であっても、執行猶予期間中は、刑に「処せられた者」に当たります。他方、執行猶予期間を経過してしまえば、刑の言渡しが効力を失うため(刑法27条)、刑に「処せられた者」ではなくなります。
   さらに、刑の執行を受け終わった者が、罰金以上の刑に処せられないで一定期間(禁錮以上の場合は10年、罰金以下の場合は5年)を経過したときも、刑の言渡しが効力を失うため(刑法34条の2)、その期間が経過した後は、刑に「処せられた者」ではなくなります。
   さらに、特赦(恩赦法4条)は、有罪の言渡しの効力を失わせることから(恩赦法5条)、特赦を得れば刑に「処せられた者」ではなくなります。例えば医学部の学生が交通違反で罰金刑を受けた後、5年を経過しない時期に医師国家試験を受験するような場合には、法務省(窓口は地方検察庁)に特赦を願い出て資格を回復することも可能です。

3 医師免許取得後の医師に対しては、免許取消等の行政処分があります。

 ⑴ 医師法7条1項は、「医師が医師法4条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、①~③に掲げる処分をすることができる」と定めています。
  ① 戒告
  ② 3年以内の医業の停止
  ③ 免許の取消し
  
 ⑵ この医師法7条1項が、医師の行政処分に関する根拠規定になります。
  ①の「戒告」とは反省を促すことであり、平成18年の医師法改正で導入された処分類型になります。
  ②の「医業停止」とは一定期間(上限は3年間)医業を停止することです。
  ③の「免許取消し」とは将来に向かって免許の効力を消滅させることです。
  なお、戒告及び医業停止処分対象者には、厚生労働大臣が、再教育研修(行政処分を受けた医師に対する  倫理研修及び技術研修)を命じることができます(医師法7条の2)。
また、医師免許の取消処分を受けた者であっても、一定の条件下で、再免許を与えることができるとされています(医師法7条2項)。

 ⑶ 厚生労働大臣が医師に対する免許取消等の処分をするに当たっては、あらかじめ、医道審議会(日本医師会(歯科医師会)会長、学識経験者の中から厚生労働大臣が任命する委員30人以内で組織される)の意見を聞かなければならないとされています(医師法7条3項)。
   そのような慎重なプロセスを経て処分が判断されることから、医師に対する免許取消等の行政処分に関する判断は、医師免許の免許権者である厚生労働大臣の「合理的な裁量」にゆだねられていると解されており、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、濫用したと認められる場合でない限り、裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないとされています(最高裁S63.6.17判決:菊田医師実子あっせん事件)。

 ⑷ 医師に対する行政処分の実情は、半年ごとに厚生労働省が公開している医道審議会医道分科会議事要旨を見るとわかります。
   例えば、令和4年1月27日医道審議会医道分科会議事要旨をみると、それまでの約半年間に、医師26名に対する行政処分について諮問がなされ、このうち17名に対する行政処分(取消2件、医業停止3年5件等)の答申と、9名に対する行政指導(厳重注意)の答申が行われたことがわかります。このうち最も重い免許取消は麻薬犯罪や放火で有罪となった事例であり、医業停止の中でも最長期3年は詐欺等、強制わいせつ、麻薬犯罪で有罪となった事例でした。 
   その後の、令和4年7月21日医道審議会医道分科会議事要旨をみると、それまでの約半年間に、医師16名に対する行政処分について諮問がなされ、このうち11名に対する行政処分(取消1件、医業停止3年2件等)の答申と、5名に対する行政指導(厳重注意)の答申が行われたことがわかります。このうち免許取消は放火で有罪となった事例であり、医業停止3年は準強制わいせつ、薬物犯罪で有罪となった事例でした。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★