コラム 改正刑法②「侮辱罪の法定刑の引き上げ」
2022年8月
弁護士 虫本良和
令和4年6月13日、刑法等の一部を改正する法律(以下「本法」という。)が成立しました。本法の主な内容として、侮辱罪(刑法231条)の法定刑の引き上げがあります。
具体的には、これまで拘留(1日以上30日未満の期間、刑事施設に収監するという刑罰。刑法16条。)又は科料(千円以上一万円未満の金銭の納付を命じる刑罰。刑法17条。)のみだった侮辱罪の法定刑に、一年以下の懲役・禁錮及び三十万円以下の罰金を加えるものです。なお、懲役と禁錮は、本法の公布から3年以内に「拘禁刑」に単一化されることとなっています。
侮辱罪の法定刑に懲役刑等を導入することは、正当な論評を萎縮させ、表現の自由を侵害する危険性が極めて高いものです。また、侮辱罪は「公然と人を侮辱した」場合に成立する犯罪であることから、SNS上のダイレクトメッセージなどインターネット上での誹謗中傷対策としても必ずしも的確とはいえません。
本法の附則第3項では「政府は、第一条の規定の施行後三年を経過したときは、同条の規定による改正後の刑法第二百三十一条の規定の施行の状況について、同条の規定がインターネット上の誹謗中傷に適切に対処することができているかどうか、表現の自由その他の自由に対する不当な制約になっていないかどうか等の観点から外部有識者を交えて検証を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と定められています。
今後、本法の適用やその委縮効果によって、表現の自由に対する不当な制約が行われることがないか、法律家だけでなく、市民ひとりひとりが運用状況を見守っていく必要があると考えます。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★