Q 息子が特殊詐欺の「現金回収役」として逮捕されました。どうしたら良いですか?
Q 息子が特殊詐欺の「現金回収役」として逮捕されました。どうしたら良いですか?
A ひとことで「現金回収役」と言っても、息子さんが実際に何をやったのか、どこまで知っているのかによって、処分の行く末が大きく変わってきます。
早めに弁護士に相談し、状況を把握した上、十分な対策を取って臨む必要があります。
1 特殊詐欺を行う犯行グループ内は、リーダーを頂点とする多層的な役割分担が決められています。その上で、グループ内ではお互い偽名を名乗り、指示や連絡には匿名性の髙いSNSアプリが使われることなどにより、徹底した組織防衛の対策(リーダーまで捜査の手が及ばないようにするための対策)が取られているのです。
その末端に位置付けられているのが「受け子」「出し子」と呼ばれる役割です。「受け子」や「出し子」は、被害者方に出向いて現金等を受け取ったり、被害者に振り込ませるなどした現金をATMから引き出すことを担当させられます。この役割を担当させられるのは、アルバイト感覚で募集に応じた本来犯罪とは無縁の若者が多く、1回当たり数万円乃至十数万円(相場はだまし取った金額の1割程度と言われています)の報酬で、最も危険な役割*1を担わされているのです。
特殊詐欺事犯で逮捕・起訴される者の大多数が、この「受け子」や「出し子」であり、その上位者まで捜査の手が及ぶことは、あまりありません。真っ先に逮捕され、犯行の全責任を負って刑務所に行かされるリスクを考えると、だまし取るなどした金額の1割程度の報酬は、あまりにも安い報酬と言わざるを得ません。
他方、「受け子」や「出し子」の上位に位置する役割も細分化されており、真のリーダーの下に、リーダーの意を受けて指示を出す「指示役」、受け子や出し子を募集する「リクルーター」、犯行に使うスマホや銀行口座*2を調達する「犯行準備役」、更には被害者に電話をかけてだます「かけ子」などの役割が分かれていて、やはり、お互いがその本名も連絡先もわからないように情報がコントロールされています。
そういった組織防衛対策の中で、更に役割分担の階層を複雑にし、確実にリーダーを守るために作られた役割とも言えるのが「現金回収役」になります。
2 「現金回収役」は、一般的には、「受け子」や「出し子」がだまし取るなどしてきた現金を指示された場所で預かり、これを指示された別の場所に運んで他の仲間に渡すことを担当しています。
「現金回収役」は、例えば警察が上位者を捕まえるために、「受け子」や「出し子」を泳がせて尾行していた場合には、現金を預かったところで現行犯逮捕されてしまう危険があります。また、逮捕された「受け子」や「出し子」の供述によって、ある程度の捜査が進んだ時点で通常逮捕されてしまう危険もあります。ですから、「現金回収役」は、「受け子」や「出し子」に準じて危険な役割を負わされているといっても良いでしょう。
そして、過去に起訴された事例をみると、「現金回収役」は、詐欺罪や窃盗罪の共同正犯(刑法60条)として処罰される場合と、その幇助犯(刑法62条1項)で処罰される場合とに、分かれているようです。
仮に幇助犯で処罰されるのであれば、法律上、その刑が減軽されますので(刑法63条)、どちらが選択されるかは処罰される側にとって、とても重要です。
3 検察官が「現金回収役」を起訴するに当たり、共同正犯と認定するのか、それとも幇助犯と認定するのかの判断基準は、「現金回収役」が、①いつ・どこで現金を回収したかなど『実際に何をやったのか』ということと、②組織の犯行を『どこまで知っていたのか』ということの見極めに関わってくるようです。
例えば、「現金回収役」が、「受け子」が被害者に接触する前から受渡場所への移動を開始していた上、「受け子」が被害者から現金を受け取った直後に、被害者の自宅のすぐ近くで、「受け子」から現金を預かったような事情が認められる場合には、検察官から、限りなく「受け子」に近い役割を負っている上、「受け子」が被害者からお金を受け取ることも十分認識した上で行動していると評価され、共同正犯として起訴されるリスクが高くなります。
他方、「現金回収役」が、「受け子」が被害者から現金を受け取ったずいぶん後に行動を開始し、かつ、現金受渡の場所も被害者の自宅から遠隔地であったような場合には、共同正犯とまでは認め難いと評価され、幇助犯として起訴される可能性が出てきます。
ただ、後者の場合であっても、これまでにも現金回収の役割を何度も行ってきたような事情が認められる場合には、組織の犯行をかなり深く認識していたと評価されて、共同正犯として起訴される危険が高くなります。
4 このように、一口に「現金回収役」といっても、実際にやったことを専門家の目で丁寧に検証し、かつ、捜査機関がどこまでの証拠を握っているのかを探っていかなければ、処罰の行く末はわからない(したがって、的確な対策も立てにくい)というのが実情になります。
また、捜査機関は、一般的に、一度逮捕した被疑者を「より重い」罪で処罰したいと考える傾向にありますので、「現金回収役」として逮捕された場合、たとえ事実を一応認めていたとしても、捜査官に誘導されて過剰な自白をさせられないよう、細心の注意を払う必要があります。
事案によっては、起訴されるかどうかが微妙な証拠関係にあり捜査機関の出方をみたほうが得策であるとして、黙秘を勧める場合もあります。
そして、実際にどのような対応をとることが必要かつ有効かは、経験豊かな弁護士が息子さんから詳しく話を聞き、実際に何をやってしまったのかを把握した上、捜査機関がどんな証拠を持って、何を狙っているのかを的確に予測した上で、助言差し上げることになります。
そのため、迷うことなく、すぐに経験豊かな弁護士に相談することをお勧めします。
法律事務所シリウスには、刑事事件の経験豊かな弁護士が複数在籍していますので、是非、お気軽に御相談下さい。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★