警察が行うリモートアクセス捜査について最高裁判所の新しい決定が出ました
令和3年3月9日
弁護士 金子達也
1 警察官がリモートアクセスにより海外にある記録媒体から収集した証拠の証拠能力について,最高裁判所が興味深い決定を出したので紹介します。
2 リモートアクセスというのは,「コンピュータを用いてこれと電気通信回線で接続している記録媒体にアクセスすること。」と定義付けられており,サイバー犯罪に関する条約(平成24年条約第7号)に基づき日本国内において整備された刑事訴訟法218条2項の規定により,日本の捜査機関にも許されている捜査手法です。
この規定により,日本の捜査機関は,パーソナルコンピュータを差し押さえる際に,刑事訴訟法218条2項に基づき裁判所から「リモートアクセスによる複写の処分の許可」をも受けておくことによって,差し押さえたコンピュータと電気的通信回線で接続している記録媒体にアクセスし,そこに保管されたデータを複写することができるようになったのです。
要は,コンピュータを差し押さえる際に,その場で,そのコンピュータを操作してGoogle等のメールサーバにアクセスし,保管されているメールのやりとりに関するデータを複写して証拠とすることが可能になったわけです。
3 もっとも,これらのサーバは海外にあることが多く,その場合には,日本の捜査機関の捜査権は海外には及ばない(つまり,日本の捜査機関が海外で捜査活動をすることは,その国の主権を侵すことになり許されない。)とされる原則が,円滑な捜査遂行上の支障になっていました。
この点,これまでの裁判所の態度は,「リモートアクセスによる証拠収集は国際捜査共助等の方法により,サーバ設置国の捜査機関の協力を得てから行うべきである。」とする考え方が主流でした(東京高等裁判所平成28年12月7日判決など)。
しかし,実際問題として,捜査共助の依頼は外国の司法当局の然るべき機関との折衝が必要になる上,協議のために必要な捜査書類の翻訳ややりとりにも相当程度の時間がかかることから,捜査共助を得るのには最低でも数ヶ月はかかると言われています。
そうなった場合,その間に,捜査を察知した被疑者が,サーバに保管されたデータを削除するなどの証拠隠滅行為に走る不都合が起き得るといった問題も指摘されてきました。
4 そういった中で,最高裁判所第2小法廷は,令和3年2月1日,「刑訴法99条2項,218条2項の文言や,これらの規定がサイバー犯罪に関する条約(平成24年条約第7号)を締結するための手続法の整備の一環として制定されたことなどの立法の経緯,同条約32条の規定内容等に照らすと,刑訴法が,上記各規定に基づく日本国内にある記録媒体を対象とするリモートアクセス等のみを想定しているとは解されず,電磁的記録を保管した記録媒体が同条約の締約国に所在し,同記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合に,国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び同記録の複写を行うことは許されると解すべきである。」とする決定を出しました。
これは,証拠隠滅を未然に防ぎたいという捜査機関の要請にかなうばかりではなく,弁護人の立場から見ても,無用に長く捜査対象とされる依頼者の負担を軽減するという意味で,歓迎できる判断であると筆者は感じています。
5 リモートアクセスという捜査手法は,犯罪のIT化や国際化に対応した新しい捜査手法です。
新しいが故に,その手法の在り方や使い方についての明確な規範(判例)が定まっておらず,時として,捜査機関のスタンドプレーが問題になる領域でもあります。
例えば,前述の東京高等裁判所平成28年12月7日判決は,捜査機関が,パーソナルコンピュータの差押時に裁判所から「リモートアクセスによる複写の処分の許可」を得ていたにもかかわらず,パスワードがわからなかったことからその場でのリモートアクセスを断念し,そのパーソナルコンピュータを解析してパスワードを解明した後に,「検証令状」だけを採ってリモートアクセスを行った捜査手法について,「重大な違法」があると判断しています。
また,この「パスワード」を聞き出す際の手法として,捜査機関が「任意」であること(強制的に聞き出せるものではないこと)を対象者に明確に伝えず,強制的な雰囲気の中でなし崩し的に聞き出してしまう手法の不当性・違法性も指摘されており,裁判で争われるケースもあります。
ですから,このような裁判例の積み重ねに今後も注目し,興味深い裁判例は紹介していきたいと思っています。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★