精神鑑定をする場合,どこまで鑑定人の判断が尊重されるのでしょうか。心神喪失や心神耗弱は法律判断だと思いますが,精神科医と法律家の役割分担はどのようなものになるのでしょうか。
よくあるご質問刑事事件
東京医科歯科大学の岡田幸之先生が,精神鑑定を8ステップに分けて,①~④までが医学的判断,⑤~⑧までは法的判断であるという考え方を報告し(岡田幸之「責任能力判断の構造と着眼点」精神神経学雑誌115巻10号),法曹(特に裁判所)においても,その考え方をベースに争点整理や審理を行うことが増えています。
この8ステップの考え方については,特に,③の疾病診断の持つ重みを失わせるのではないか,あるいは生物学的要素の持つ重みが軽視されるのでないかといった精神科医側からの批判もありますが,裁判実務には浸透しつつある考え方です。実際の裁判でも,精神科医に対して,「責任能力についてどうお考えですか?」などという質問をしている例はほとんどなく,精神科医の尋問でも①~④を主に聞くという実務になりつつあります。
8ステップが正しいかどうかは今後の議論を待つ必要がありますが,少なくとも精神科医の専門領域がどこまでなのかという視点は重要だと思われます。
【8ステップ】
① 情報の収集
② 精神症状の認定
③ 疾病診断
④ ②と事件の関連性
⑤ 善悪判断・行動制御への焦点化
⑥ 弁識能力・制御能力として特定
⑦ ⑥の程度の法的評価
⑧ 法的結論
2021年2月19日
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★