飲酒運転をした場合,どのような罪に問われますか?
1 飲んだら乗るな,乗るなら飲むな!
誰もが守らなければならない交通ルールです。
このルールに違反すると,次のような,様々な罪に問われる危険があります。
2 自動車運転のルールを定めた法律は,道路交通法(以下,「道交法」と言います。)です。
道交法65条1項は,「何人も,酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」と定めており,道交法117条の2の2第3号は,「第65条第1項の規定に違反して車両等を運転した者で,その運転をした場合において政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあったものは,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と定めています。このように,道交法はまず,酒気帯び運転行為自体に,罰則をもうけています(以下,「酒気帯び運転罪」と言います。)。
酒気帯び運転罪は,身体に保有されるアルコールの濃度(以下,「アルコール濃度」と言います。)が,政令で定める数値以上であれば犯罪が成立するものであり,実際に酒に酔った状態であるかは,犯罪の成立には影響しません。
例えば「自分は酒に強いので少々飲んでも酔わない。」などという弁解は通用しませんし,実際に酔っ払っていないからといって許してもらえません。
ちなみに,現在の政令では,呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコール濃度が検出されれば,酒気帯び運転罪が成立するとされています。人にもよりますが,ビール一杯程度の飲酒量であっても,呼気検査でこの数値が出ることがあるので,気を付けましょう。
また,行政処分の点からみると,呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコール濃度が検出された場合は免停90日であり,更に呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコール濃度が検出された場合には,免許取り消し(欠格期間2年)となります。
3 さらに,道交法117条の2第1号は,「第65条第1項の規定に違反して車両等を運転した者で,その運転をした場合において酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。)にあったものは,5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」と定めています(以下,「酒酔い運転罪」と言います。)
酒酔い運転罪が疑われた場合,アルコール濃度が政令で定める程度以上であったか否かにかかわらず,酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態)が認定されれば犯罪が成立します。
この「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」とは,一般に,車両等を正常に運転するについて必要な注意力(すなわち外部に対する注意力,中枢神経の活動力,抑制心等)を欠くおそれがある状態と言われています。
交通検問で,警察官が,酒臭がする運転者に対し,簡単な質問をして受け答え(口調や呂律など)を確認したり,直線上を歩かせてふらつきを確認したりするのは,自動車を正常に運転するについて必要な注意力が欠けていないかを確認しているのです。
アルコールの影響により必要な注意力が欠けているにも関わらず自動車を運転する行為は,不注意による交通事故を招く危険性を高めている悪質な運転行為であるため,道交法は,酒酔い運転罪を通常の酒気帯び運転罪より重く処罰しているのです。
なお,酒酔い運転行為に対する行政処分は,免許取り消し(欠格期間3年)です。
4 お酒を飲んで人を死傷させる交通事故を起こした場合には,更に重く処罰される危険があります。
平成26年5月に施行された,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下,「自動車運転行為処罰法」と言います。)は,お酒を飲んで運転した運転者による悲惨な交通事故が後を絶たないことから,それを食い止めようとする世論に後押しされて成立した法律です。
自動車運転行為処罰法が施行される以前は,お酒を飲んで人を死傷させる交通事故を起こした場合は,酒気帯び運転罪(又は酒酔い運転罪)と業務上過失致死傷罪(刑法211条:5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)として処罰されていました。
しかし,自動車運転行為処罰法の施行によって,酒気帯び運転罪(又は酒酔い運転罪)と自動車運転処罰法5条の過失運転致死傷罪(7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)という,より重い罪で処罰されることになったのです。
さらに,自動車運転行為処罰法は,お酒を飲んで人を死傷させる交通事故を起こした場合に,一定の要件が具備されれば,厳罰に処する条項を新設しました。すなわち,自動車運転行為処罰法2条1号は,「『アルコール(中略)の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為』を行い,よって,人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役(※有期懲役の上限は20年)に処する。」と定めています。
また,自動車運転行為処罰法3条1項は,「『アルコール(中略)の影響により,その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態』で自動車を運転し,よって,そのアルコール(中略)の影響により正常な運転が困難な状態に陥り,人を負傷させた者は懲役12年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する。」と定めています。
このように,自動車運転行為処罰法2条1号及び3条1項により,お酒を飲んで人を死傷させる交通事故を起こし,かつ,各条項の要件を満たした場合には,(死刑・無期懲役こそないものの)殺人罪にも匹敵するような重い刑罰が科されることになったのです。
5 ところで,この2つの規定の違いですが,一般に,問題とされる運転行為(=実行行為)時に求められる故意の程度の違いと言われています。
つまり,前者(自動車運転行為処罰法2条1号)は,問題とされる運転行為時に「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」であることの認識がなければ犯罪は成立しないとされているのに対し,後者(自動車運転行為処罰法3条1項)は,問題とされる運転行為時に「アルコールの影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であることの認識があれば足り,その結果として「正常な運転が困難な状態」に陥って交通事故を起こせば犯罪が成立するとされているのです。
アルコールの影響で仮眠状態に陥り交通事故を起こした場合を例にすると,「飲み過ぎて眠りそうだ」という認識で自動車の運転を行い仮眠状態に陥って交通事故を起こした場合は2条1号で処罰され,「お酒に酔っている」程度の認識しかなくても,そのような状態で自動車を運転して仮眠状態に陥り交通事故を起こした場合は,3条1項で処罰されることになる,と区別されています(後者の方が少し軽い刑になっています。)。
もっとも,実際問題としては両者の区別は非常に難しく,法律の専門家の間でも議論が分かれているところです。
6 最後になりますが,自動車運転行為処罰法4条は,酒酔い運転をして人を死傷させる交通事故を起こした場合に,「その運転の時のアルコール(中略)の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で,更にアルコール(中略)を摂取すること,その場を離れて身体に保有するアルコール(中略)の濃度を減少させることその他影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは,12年以下の懲役に処する。」とも定めています。
これは『過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪』といわれるものです。
自動車運転行為処罰法2条1号及び3条1項が前記のとおり重罪であることから,お酒を飲んで人を死傷させる交通事故を起こした犯人が,これらの重罪による処罰を免れようとして,その場を離れ酔いが覚めてから出頭する(そうすれば比較的軽い過失運転致死傷罪で処罰される可能性があります。)ようなひき逃げ行為が多発することが想定されたため,そのような犯人を重く処罰する規定を設けることによって,「逃げ得」を許さない厳しい姿勢を示したものなのです。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★