外国人受刑者が母国の刑務所で受刑することは認められないのでしょうか?
外国人受刑者を母国に移送して母国で服役させる,国際受刑者移送(送出移送)という制度があります。
日本は,平成15年に,欧州協議会における「刑を言い渡された者の移送に関する条約」に加入しました(条約締結国等は脚注のとおり。)。さらに,その後も,同条約未加入国である,タイ王国との間で「刑を言い渡された者の移送及び刑の執行における協力に関する日本国とタイ王国との間の条約」を締結しました(平成22年発効)。また,その後も,ブラジル連邦共和国,イラン・イスラム共和国,ベトナム共和国との間で,順次同様の条約を締結しています。
これらの条約に基づき,日本では,その国内担保法である国際受刑者移送法が定める手続に従って,これらの条約締結国との間で受刑者の移送を行っています。
その実績ですが,平成27年度版犯罪白書によれば,平成26年における日本からの受刑者送出移送(受刑者を母国に送り出す移送)人員は総数33名であり,送出先の国別に見ると,ドイツが8名,リストニア及び英国が各4名,スペインが3名,韓国が2名などとなっています。
これを罪名別に見ると,関税法違反が28名,覚醒剤取締法違反が25名と最も多くなっており,麻薬及び向精神薬取締法違反4名,あへん法違反2名,大麻取締法違反2名と続いています。他方,その他の刑法犯の送出移送人員は比較的少なく,強盗致傷2名,傷害1名,殺人1名にとどまっています(平成27年度版犯罪白書第2編,第7章,第4節)
このように,受刑者送出移送者の罪名に関税法違反や薬物法違反の割合が圧倒的に多いのは,麻薬の運び屋として来日した外国人が税関で摘発され,長期の懲役刑を宣告されるケースが比較的多く,これらの犯罪については,いわゆる被害者もおらずその感情に考慮する必要もないことから,母国における服役になじむ要素が多いからだと思われます。
他方,殺人等については,被害者や社会の感情を考慮し,母国での服役に委ねることは不相当という考慮が働いている可能性があります。
【脚注】
欧州評議会において,昭和58(1983)年に作成されたものであり,条約締結国は,韓国,イスラエル,トルコ,チェコ,エストニア,スウェーデン,英国,イタリア,スペイン,オーストリア,ドイツ,オランダ,カナダ,米国,メキシコなど。
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★