イギリス刑法判例紹介② Woollin <故意>
【事案】
被告人(男性)が、生後3か月の息子を1.5メートル先に置かれていたベビーカーに向かって投げつけて死亡させた。
【判断】
Crown Courtでは、裁判官が陪審に対し、「被告人が、被害者の死亡または重大な傷害について、substantial riskを認識していた場合には、間接的故意が認められる」旨の説示をし、陪審は被告人を殺人罪で有罪とした。
Court of Appeal は、陪審への説示は適切だったと判断したが、House of Lordsは、間接的故意に関する陪審への説示について、結果の発生が、①客観的にvirtually certainであり、かつ、②被告人がvirtually certainであると予見していた場合に限り、陪審は故意を認める権利を与えられると判示し、殺人罪の適用を否定した。
【コメント】
イギリス刑法では、故意の概念は、direct intention(直接的故意)とindirect intention(間接的故意)に分けられます。間接的故意は、日本法における未必の故意に近い概念ですが、上記の判示を見ても分かるとおり、高度の予見を要求しており、未必の故意と比較して、その適用はかなり狭い範囲に限定されることになります。日本の刑事裁判実務では、未必の故意が徒に広範囲に適用されている印象があり、改めてその妥当性を考えさせられる部分があります。もっとも、イギリス刑法では、故意と過失の間に、recklessness という中間概念があり、その点も故意概念の限定に影響しているのかもしれません。
弁護士中井淳一
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★