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無罪判決に対して検察官が控訴した場合,勾留請求が認められるか

2020.05.07ブログ

 第1審判決が無罪判決であった場合,被告人の勾留状はその効力を失うことになります(刑訴法345条)。つまり,それまで勾留されていた場合でも,無罪判決後は自由に帰ることができます(なお,ビザ等がない外国人の場合,在留資格がないため,判決後,入国管理局に収容されるため,自由に帰ることはできません。無罪判決の場合,出入国在留管理庁の職員が法廷に待機していることが通例です。)。

 無罪判決に対して検察官が控訴する場合,無罪判決が出たにもかかわらず,勾留請求を行う場合があります。日本人のケースでは少ないですが,被告人が外国人の場合,退去強制手続により国外に出てしまうと,控訴審で有罪判決を得たとしても刑罰の執行もできませんので,得に外国人事件の場合に勾留請求を行うことが多いように思われます。

 検察官は,訴訟記録が第1審にある場合,地裁に勾留請求を行い,記録が控訴審に移った段階で,高裁に勾留請求を行うことになります(裁判所は,無罪判決を出した場合,通常の事件よりも早く記録を送ります。)。もっとも,地裁は自ら無罪判決を出していることもあり,無罪判決後に勾留するとの職権発動をしないことが多いと思われます。そこで,検察官は,訴訟記録が控訴審にきた段階で,高裁で改めて勾留請求を行います。

 無罪判決後の控訴審裁判所の勾留判断については,最高裁平成23年10月5日決定が次のように判示しています(最高裁判所刑事判例集65巻7号977頁)。

第1審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の言渡しをした場合であっても,控訴審裁判所は,第1審裁判所の判決の内容,取り分け無罪とした理由及び関係証拠を検討した結果,なお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,刑訴法345条の趣旨及び控訴審が事後審査審であることを考慮しても,勾留の理由及び必要性が認められるときは,その審理の段階を問わず,被告人を勾留することができるというべきである(最高裁平成12年(し)第94号同年6月27日第一小法廷決定・刑集54巻5号461頁,最高裁平成19年(し)第369号同年12月13日第三小法廷決定・刑集61巻9号843頁参照)。以上のような観点から見て,被告人に対して犯罪の証明がないことを理由に無罪を言い渡した第1審判決を十分に踏まえても,なお被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,勾留の理由及び必要性も認められるとして本件勾留を是認した原決定に所論の違法はない。

 上記最高裁は,結論として,無罪判決後に控訴審が勾留請求を認めた判断を是認したものですが,「取り分け無罪とした理由及び関係証拠を検討した結果,なお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,刑訴法345条の趣旨及び控訴審が事後審査審であることを考慮しても,勾留の理由及び必要性が認められるとき」と判示し,勾留請求が認められることは例外的なケースであることを想定しています。実際に,検察官が控訴し,控訴審において勾留請求したものの却下されている事例もあり,まず,弁護人として,勾留の理由及び必要性が認められないことを主張し,無罪判決後の勾留回避を目指すべきです。

 なお,同じ問題を扱った平成19年12月13日の最高裁決定(最高裁判所刑事判例集61巻9号843頁)では,次のような判示がされており参考となります(下線は筆者がひいたものです。)。

第1審裁判所において被告人が犯罪の証明がないことを理由として無罪判決を受けた場合であっても,控訴裁判所は,その審理の段階を問わず,職権により,その被告人を勾留することが許され,必ずしも新たな証拠の取調べを必要とするものではないことは,当裁判所の判例(最高裁平成12年(し)第94号同年6月27日第一小法廷決定・刑集54巻5号461頁)が示すとおりである。しかし,刑訴法345条は,無罪等の一定の裁判の告知があったときには勾留状が失効する旨規定しており,特に,無罪判決があったときには,本来,無罪推定を受けるべき被告人に対し,未確定とはいえ,無罪の判断が示されたという事実を尊重し,それ以上の被告人の拘束を許さないこととしたものと解されるから,被告人が無罪判決を受けた場合においては,同法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求されると解するのが相当である。 

 

以上

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★